2018年
2月号
「時実新子先生に、川柳は生きることを吐く、五七五で吐いて表現するのだと教わりました」と門前さん。「川柳は、生きている証です」

神戸鉄人伝 第98回 NPO法人ウィズアス副理事長(元サンテレビジョン取締役) 門前 喜康(もんぜん よしやす)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

NPO法人ウィズアス副理事長(元サンテレビジョン取締役)
門前 喜康(もんぜん よしやす)さん

 地元密着のテレビ局と言えば、何といってもサンテレビ。プロ野球中継や神戸まつりなどのイベント放送、地域の話題を集めたニュースは市民にお馴染みです。その番組制作に携わり、阪神・淡路大震災の時には報道の現場におられた門前喜康さんは、一方で川柳人としての顔もお持ちです。そして今はメディアから離れ、福祉の仕事に邁進されている門前さんにお話をうかがいました。

―もともとマスコミ業界を志しておられたのですか?
 学生時代はマスコミとは縁遠い世界、大阪芸術大学で舞台芸術を学んでいました。卒論のテーマを「農村歌舞伎と農村舞台」にしたので、県下を取材して回ることに。この時初めて兵庫県の多様性を知って驚き、もっと地元を知りたいと思うようになります。それで地元のテレビ局に就職しました

―サンテレビでは番組制作を?
 制作部と報道部、どちらの仕事も経験しました。テレビが「全盛期」と言われた時代でしたし、中央の親局無しの広域局の仕事は、とてもやりがいがありましたね。状況が一変したのは、言うまでもなく阪神・淡路大震災です。

―あの日は、どのように?
 西区の自宅でただ事ではない揺れに襲われ、飛び起きて四輪駆動車で会社に向かいました。ひよどり台を通る時、長田から煙が上がるのが見えました。悪い夢を見ているんじゃないかと何度も思いました。西神戸有料道路を降りて神戸大橋まで来たら、橋に段差ができていて通行不能!でもそんなこと言っていられない、強行突破してポートアイランドに入り、会社にたどり着きました。

―大変だったのはそれからですね。
 まさに無我夢中の日が続きました。それまでテレビ局の誰もが、まさか自分が被災する側に立とうとは思ってもいませんでした。取材は「する側とされる側」という関係が震災で壊れ、我々は地元メディアとして被災者側に立った報道を重ねていきました。この経験があったので、後の犯罪報道でも「被害者を理解していこう」という気持ちで取材しました。震災から学んだことは、数知れません。

―今は福祉のNPO法人におられますが…。
 NPO法人の鞍本長利理事長はかつて舞台照明家で、親しい間柄でした。障がい者の震災報道取材で鞍本さんと再会し、以来20数年ボランティアとして障がい者福祉に関わってきました。震災が無ければ、自身が福祉関係のボランティア活動をする側にはならなかったと思いますよ。2017年にマスコミ関係の職場から離れ、このNPO法人の副理事長の役に就きました。これも震災がつないだ縁です。

―地域密着のNPO法人ですね。どのような活動を?
 様々な人々の地域での社会参加促進がミッションです。介護や支援によって、障がい者が地域で自立して生きていけるようにサポートを行っています。「KOBEどこでも車いす」の貸し出しや情報誌の発行など、ユニバーサルツーリズムにも力を入れています。

―川柳界でもご活躍とうかがっています。
 これも震災がきっかけでした。故・時実新子先生が週刊文春誌上で震災川柳を募集しておられたので応募したところ、私が初めて読んだ川柳「冬の雲仮設の窓にチマチョゴリ」が「震災川柳百句」に選ばれたのです。仕事柄、記事やナレーションなど文章は書いていましたが、自分の表現はしてこなかったことに気付き、この世界に惹き込まれていきました。本当に、震災が無かったら私の人生は違うものになっていたでしょうね。震災による出会いと縁に感謝したいです。
(2017年12月2日取材)

 報道、福祉、川柳とキャパシティに驚かされる門前さんですが、いつもその目は地元―自身の生きる地域を見詰めている、そんな風に感じました。

「時実新子先生に、川柳は生きることを吐く、五七五で吐いて表現するのだと教わりました」と門前さん。「川柳は、生きている証です」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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