2018年
1月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十回

カテゴリ:医療関係

尼崎市民医療フォーラム
「このままでは、いたちに明日はない!」について

兵庫県医師会理事
八田クリニック院長
八田 昌樹 先生

─2017年の尼崎市民医療フォーラムのテーマは何でしたか。

八田 医療に関するさまざまな問題を市民のみなさまとともに考える尼崎市民医療フォーラムは、毎年秋にアルカイックホールオクトで開催していますが、第11回を迎えた2017年のテーマは、「地域医療構想」を採り上げました。とは言え、それだけでは市民のみなさまにピンと来ないのではと思い、「このままでは、いたちに明日はない!~地域医療構想は明日の医療の青写真?」と、昔の名画『俺たちに明日はない』をもじったタイトルにしました。

─「地域医療構想」とは何ですか。

八田 地域、主に県によって少子高齢化や多死社会に向け、医療崩壊を防ぐべく、限られた医療資源を適正かつ有効に活用することができる地域医療の供給体制の整備を目指すもので、2016年にフォーラムで採り上げた「地域包括ケア」とも密接に関わっています。現在は将来の医療需要などの推計をもとに病床数を決めている段階です。今回のフォーラムでは基調講演で、兵庫県医師会医政研究委員の堀本仁士先生に「地域医療構想ってなに?」をテーマに詳しくお話いただきました。

─基調講演のお話はどのような内容でしたか。

八田 現在、日本の高齢化率は23%ですが、団塊の世代が75歳になる2030年には32%になり、さらに先、団塊ジュニアが75歳になる2060年時点の高齢化率は40%になると推計されているそうです。ちなみに、現在の尼崎市の高齢化率は26・8%と全国平均より高く、より問題にしていかなければいけません。このような人口構造になると若い世代が減りますから、1990年には5人の若年世代が1人の高齢者を支えていましたが、どんどん支え手が少なくなっていくんですね。つまり高齢の患者さんは増えますが、それを支える人材や医療資源、もちろん財源も減っていく訳ですから、今まで以上に無駄を省いて、地域の病院が連携して効率よく医療を提供することが求められるということでした。

─患者さんが増えるなら、医療機関を増やせば良いのではないでしょうか。

八田 ところが、総人口が減少するため病院を増やすのは難しいのですよ。ですから、病気と共存しながら住み慣れた地域で健康な日常生活を長く送れるようにしようという地域完結型医療が重要になります。「地域医療構想」では急な病気に対応する急性期病院、そこから回復へ向かう医療をおこなう回復期病院、そして退院した後のかかりつけ医が連携して患者を診るというシステムでそれに対応する計画だそうです。現在の段階では一般病床と療養病床の2つに分類されていますけれど、「地域医療構想」ではこれを高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに分類し、高度急性期と急性期を減らして回復期を手厚くしていきます。全体の病床数は減りますが、在宅医療を強化して補っていくとのことです。ですから今後は「地域包括ケアシステム」がより重要になるとともに、在宅での看取りも増えていくでしょうね。このほか病床再編成と並ぶ「地域医療構想」の核である医療介護連携の充実についてもお話され、都市と地方では医療機関の数も違うなど実情が違うので、国は地域に合わせて適切な計画を策定することを地方自治体に求めているとのことでした。

─第2部はどのような内容でしたか。

八田 第2部はシンポジウムで、コメンテーターにコラムニストの勝谷誠彦さんを迎えました。最初に勝谷さんから、知事選の経験をもとに、日本の縮図と言われる兵庫県において都市部と山間部の医療体制の差について語っていただきました。医療機関の数や医師の数のほか、地方では医師の高齢化も目立つというお話があり、若い世代の無関心も大きな問題だと指摘されました。シンポジストは基調講演をおこなった堀本先生のほか、地域医療政策に通じた衆議院議員の中野洋昌さん、尼崎の救急医療の最後の砦を担う兵庫県立尼崎総合医療センター副院長の齋田宏先生、実際に在宅医療をおこなっている尼崎市医師会医政委員会委員長の横田芳郎先生というメンバーで、勝谷さんのお話を受けてそれぞれの立場から病床再編、医療圏の統合、地域完結型医療、介護の充実に向けてのかかりつけ医の役割などについて盛んな発言があり、地域医療について充実した討論になりました。

─地域間での医療体制の差はひとつの課題ですね。

八田 都市部と山間部だけでなく、例えば同じ阪神間でも南部と北部では条件が変わってきますし、尼崎市内でも南部と北部で実情は違います。医療圏の区域分けについても、例えば神戸市北区の一部は三田市と、尼崎市でも一部は府県境をまたいで豊中市と結びつきが強いなどの例もあり、エリアごとの課題はあるでしょう。いずれにせよそれぞれの地域の実情に合った形で、地域完結型医療を可能にする体制を築くことが重要です。

─「地域医療構想」で医療費の削減は可能でしょうか。

八田 必ずしもそうなるとは限りません。あくまでも地域の実情に即した医療を提供することが目的です。「地域医療構想」は2018年からスタートしますが、実際に動き出してからまた新たな課題が出てくるかもしれません。今後も動向を注視していきたいと思います。

第1部で基調講演をおこなった、兵庫県医師会医政研究委員の堀本仁士先生

2017年の尼崎市民医療フォーラムでは、「このままでは、老いたちに明日はない!」をテーマに、地域医療構想を採り上げた

第2部のシンポジウムでは、地域医療についての充実した討論がおこなわれた

兵庫県医師会理事
八田クリニック院長
八田 昌樹 先生

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