11月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 62
医療と介護は在宅療養を進める車の両輪
より密な情報交換で、円滑な連携を
─在宅療養における医師の役割について教えてください。
今井 在宅療養の多くは入院していた患者さんが退院して自宅で療養する場合で、一般的に地域の診療所の医師が在宅主治医となります。地域の診療所は全人的医療、人間をひとつの個体としてあらゆる面から診ていくというスタンスで、専門医による治療の入口としてプライマリケアを支えています。持病のケアはもちろんですが、健康を維持するためにも患者さんの生活環境も把握しないといけません。
─在宅医療における介護の役割について教えてください。
今井 患者さんが住み慣れた地域の中で在宅療養を続けながらコミュニティ参加をしつつ充実した生活を送るためには医療以外の手も必要です。ある程度健康な人であれば可能なことも、障害や加齢などにより日常生活動作に制限が加わってくると、身の回りのことが自分でできなくなります。そこで介護が必要となってきます。患者さんの日常生活を支えていく介護があってはじめて在宅医療が可能となります。一方、介護側からみれば、医療の支えがあるからこそ安全な介護ができます。障害を持つ人や高齢者が介護の手に委ねられたときには医療が不要となり、介護が医療に取って代わると考えるのは間違った考え方です。
─医療と介護の連携はなぜ必要なのですか。
今井 在宅療養を進める上で医療と介護は車の両輪で、どちらも欠かすことができないものです。在宅主治医は再発防止を含めた治療の継続、維持期のリハビリの指示はもちろん、在宅における服薬状況の確認なども行います。しかし、そのために医師が患者さんにつきっきりでいるわけにはいきません。そこで、訪問看護師(訪看)やケアマネジャー(介護支援専門員)を通しての情報収集や介護現場との情報共有が重要になってきます。また、介護保険を受ける際の認定審査には主治医の意見書が必要で、医療的な要素を加味してはじめて認定がおこなわれます。医療と介護はお互い支え合っていかないといけません。
─医療と介護の役割分担について教えてください。
今井 医療行為が可能なのは医師と医師の指示を受けた看護師や薬剤師に限られています。例えば、褥瘡のガーゼを交換し薬を塗るのは医療行為にあたります。つまり、それらの行為は、介護の資格を持っていたとしてもヘルパーさんではできません。逆に、医療の眼だけでは見逃しがちで、日常生活に密着した介護の方々が初めて気付く重要な情報もたくさんあります。
─医療と介護の情報共有はどのようにおこなわれていますか。
今井 日常の診療現場でも適宜情報交換はおこなわれています。例えば訪問診療や通院介助の際、診察時には見られない在宅での状況や薬剤管理状況をヘルパーさんから聴き取ることがありますし、介護サービス導入にあたり医療的留意事項を問い合わせてくる介護事業者もあります。また、介護保険のサービスを受ける際にケアマネジャーがサービス計画表を1か月ごと策定しますが、その際に本人やその家族、介護関係者、医療関係者などが集まってケアカンファレンスがおこなわれます。一方、地域単位では地域包括支援センターにより情報が共有されています。神戸市ではこれを「あんしんすこやかセンター」とよび、中学校区を単位に、市内に75ほど行政の出先機関として高齢者や障害者の相談対応にあたり情報収集するとともに在宅介護を支援しています。今年の4月から厚労省が地域包括ケアシステムの立ち上げに動き始めていますが、神戸市医師会は神戸市行政や看護協会、薬剤師会、ケアマネジャー連絡会などを交えて現場の問題について議論し、地域包括ケアがどうあるべきかを検討しています。
─医療と介護の連携について、現状の課題は何ですか。
今井 本来、ケアカンファレンスには医師が出席する方が好ましいのですが、ほとんどのケースでは医師の参加なしでおこなわれているのが現状です。よく介護関係者から、医師に相談するのは敷居が高いと言われます。逆に医師の方からすると、現場の問題が十分に掴めないことが挙げられます。ですからもっとコミュニケーションが必要です。また、医療の知識を持った介護スタッフの人材育成も急務ですが、それ以前に介護スタッフは役割が重要なうえ激務であるのに一般的な仕事より所得が低いのは問題で、待遇改善が必要だと思います。
今井 康雄 先生
神戸市医師会監事
今井内科医院院長