2012年
11月号
関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)にあるNTT京阪奈ビル

情報と人間を結ぶ新技術|ネットワークのちから

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NTTコミュニケーション科学基礎研究所
所長 上田 修功さん

NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)は新技術の開発による社会貢献を目指し1991年に創立された。現在、京阪奈と厚木に研究施設を置き、情報科学と人間科学の両面から研究に取り組んでいる。上田所長を、けいはんな学研都市に訪ねた。

―CS研の役割と目指すところは。
上田  インターネットや携帯電話はごく普通に使われているという現状で、NTTでいえばドコモの通信ソフトなどはこれからも技術がどんどん進んでいくと思います。しかし、私たち研究所として危惧しているのは、「これで本当に豊かな社会になるのだろうか?」ということです。そこで、社会的な課題解決に社会システムではなく技術でどう貢献できるかと考えて基礎研究を重ねています。
―社会的な課題とは。
上田  最も大きな課題は高齢化社会です。総務省発表の昨年の推計では、40年後には65歳以上が人口の40%以上を占める社会がくるということです。技術開発は若い世代が若い人の要望で進められ、便利になります。今は電子媒体と新聞などが共存しているので良いのですが、全てが電子化して操作が高度化してきた時、目や耳も衰えてくる高齢者を含めて、皆が便利になったと思えるのでしょうか。
―どのように貢献しようとしているのですか。
上田  人間にとっての効率と機械にとっての効率は必ずしも合致しないと考えています。そこでCS研人間情報研究部では、人間にとっての効率を考えるにあたって、人間そのものを研究しています。今は「速い」「大容量」などというのが人間にも、社会システム上も便利ですが、これが行き過ぎるとある時点から人間にとっては便利ではなくなります。人間にとって本当に便利なものづくりに役立つ基礎研究を通して社会に貢献しようとしています。
―便利になり過ぎた時代、若い人たちのコミュニケーション能力低下も問題になっていますね。
上田  子供がご飯を食べながら携帯ばかり見ているというのは、多くのご家庭でも日常的にみられる光景です。社会がそういう状況を作ってきました。私共もその一旦を担ってしまったのですが…、考えなくてはならないですね。健全な社会人を育成することを阻害するような技術の発展は必ずしも良いとは言えないですね。
―防災や災害時対応の通信技術の研究も急がれますね。
上田  絶対つながるICT(情報通信技術)として研究開発に力を入れています。ただし、災害はいつ襲ってくるか分かりません。場合によっては明日襲ってくるかも知れないものですから、技術だけでなくシステム構築にNTT一体となって取り組んでいます。
震災の時には口コミが非常に役立ったようです。普段はコミュニケーションしない人たちが情報を交換しました。災害の発生により、被災地への通信が増大し、つながりにくい状況になった場合に、災害用伝言ダイヤルなどのサービスも提供しています。
―メディア情報研究部や人間情報研究部は理解できるのですが、協創情報研究部とは。
上田  「ビッグデータ」と呼ばれる膨大なデジタルデータが生産、蓄積されています。ビッグデータ時代では、以前は捨てていたデータを積極的に再利用することで潜在的な価値を生み出すことが期待されています。昔から言われている「風が吹いたら桶屋が儲かる」のように、新しいビジネスや社会システムに転じていくためには、どのような技術が必要なのかを研究しているのが協創情報研究部です。
―具体的な例としては。
上田  統計的機械翻訳技術があります。通常の翻訳ソフトは人手で作成したルールに基づいていますが、一般にルールに基づく方法では、例外が多過ぎて限界があります。当研究所では、膨大な学習データを利用する方式に基づく機械翻訳技術を開発し、英・日の特許文書の翻訳に関しては従来技術の翻訳精度を上回る性能を確認しています。
―研究成果は、どのようにして商品に結び付くのですか。
上田  CS研では基礎研究を行い、その研究結果は応用研究所に移され、更に色々な技術が融合され、グループ会社や事業会社を通じて具現化され販路が開発されます。
―社会貢献という意味で役立つ研究開発も多いですね。
上田  「ぶるなび」があります。手の上にのせ、引っ張られ感を錯覚させる装置で、例えば視覚障がい者の歩行誘導への応用も検しています。将来的には、携帯などに組み込まれれば有用な商品開発になると思っています。
また、発達に障がいがある場合の意思の疎通について脳科学的な見地で研究しています。例えば、他人の気持ちを読み取れないアスペルガー障がい者に対し、脳が出す何らかの潜在信号(サイン)を読み取ろうというものです。具体的には、五感では感じられない情動の解明について研究を進めています。微妙な表情や気持ちの変化を読み取れれば、今後、一人暮らしの高齢者や在宅介護の現場でも役立つものになると思います。
―年1回開催されているオープンハウスとは。
上田  主に事業会社とグループ会社、大学の先生と学生を対象に開催しています。デモも多く実施して分かりやすく紹介しています。
―CS研は世界とのネットワークも持っているのですか。
上田  延べ40以上の大学、研究所と共同研究を進めています。研究者は電子メール等で情報交換は簡単にできますから、共同研究契約を結べば、距離は非常に近くなっています。
―これからのCS研について。
上田  今の日本では残念ながらICT研究に関する予算の優先順位が下がっている状況です。ICTにより社会システムの効率化を図ることは高齢化社会において一層重要で、そのためにも、ICT分野での基礎研究は持続させなければなりません。日本は本来、技術立国です。近年、日本経済は低迷していますが、こんな時こそ、一定の割合で基礎研究は続けなくてはいけないと考えています。「何のために本を読むのか?」と同じですね。直接何かに役立つわけではなく、人間性や見えない部分の底上げになり、それが間接的に何かを生み出す役に原動力になります。ただしこれからの基礎研究は、人間社会を豊かにするためという前提が重要です。従来は社会インフラだったICTですが、これからは人間と情報の深い理解に基づくICT構築を目指し、個人が「ICTはありがたい」と思えるものに繋がる研究を地道に重ねていきます。
―今後も社会に役立つ基礎研究に期待しています。
インタビュー 本誌・森岡一孝

関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)にあるNTT京阪奈ビル


これまでの功績をたたえ、研究者の名前が刻まれている


円柱型の回廊が美しいエントランス


英語と日本語との語順の違いを克服した精度の高い翻訳


人間の感覚・知覚特性を利用し、あたかも1方向から牽引されていると錯覚させる「ぶるなび」を開発


最新の研究成果を幅広く紹介するオープンハウス


上田 修功(うえだ なおのり)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
所長

1984年日本電信電話公社(現NTT)入社。コミュニケーション科学基礎研究所 知能情報研究部長等を経て、2010年より同研究所所長。奈良先端科学技術大学院大学客員教授、京都大学大学院連携教授。博士(工学)。

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