11月号
「歩いて」「見て」感じる須磨の歴史と自然
お話 小池 弘三さん
〈須磨観光協会会長・大本山須磨寺貫主〉
須磨観光協会会長の小池弘三さんに歴史を通じた須磨観光の魅力について伺いました。
歴史ロマンを感じる須磨観光
—須磨の魅力とは。
小池 須磨は自然と歴史のまちです。歴史に須磨が登場することで有名なのは、やはり源平合戦からでしょうか。須磨の関がこの下にあったという話もありますし、『源氏物語』で光源氏が流された場所も須磨です。『源氏物語』で具体的な地名が出てくるのは須磨と明石だけですし、百人一首にも須磨にまつわる歌があります。実際には、紫式部や歌人たちは須磨に対する思いを想像で書いているようで、訪れた方はほとんどいないようですね。実はこの須磨寺も、正式名は「福祥寺」で、須磨寺は古くからの愛称なのです。
—武庫離宮が造営されたのはやはり須磨という場所の魅力でしょうか。
小池 須磨は風光明媚で、気候も温暖ですからね。私が須磨寺に来たばかりのころ、約30年ほど前の離宮道は、鬱蒼とした森の中に道があるような雰囲気でしたが、今はマンション通りになっています。離宮公園からは須磨の海が見えますし、きれいなところです。海に映る月も美しく、在原行平が月見をしたところから月見の名所として有名になり、「月見山」という地名が残っていることからもわかります。
—「須磨は歩いて観光するところだ」と、小池会長はよくおっしゃっていますね。
小池 須磨は歩きながら、遊びながら勉強ができて、勉強しながら遊べるところですので、やはり歩く楽しみが多いです。歩かないと鳥の声なども聞こえないし、風や匂いも感じられないですから。観光の「観」という字は五感で見るという意味があり、観音さんの「観」と同じです。「光」というのはそこで起こる現象を感じることも含まれています。ちょっとしたところに行けば史跡もありますし、大事にしている人たちもいます。そこに伝わる話として守り続けて次代に引き継いで来た人たちの心、文学的歴史を大事にしていきたい。そういった思いを感じていただきたい。史実かどうかは専門で勉強している人たちに任せて、ロマンを感じてもらえれば。
私の毎日の日課である犬の散歩で、犬が路地に入っていくから着いて行ったら新しいことに気づいたり、歩くだけで新しい発見があります。高倉台の方まで歩くこともありますし。遠過ぎて少し犬は嫌がっていますけどね(笑)。実際に800年前の戦場で通ったのかもしれないな、と思わせる道もあります。そこで少し目を閉じて風の音とか、木が擦れる音とか、鳥の鳴き声などを聞いてみるのもいいものです。
—地元の方々も、史跡などを大切にされていますね。
小池 「義経さん」って友達みたいに言いますからね(笑)。皆さんよくご存知です。須磨寺の中にも、義経が腰掛けたといわれる松や、敦盛の首を洗ったといわれる池などもありますし、須磨には他にも、月見山の「松風村雨堂」、須磨寺駅近くの「平重衡(しげひら)とらわれの松跡」などたくさんの史跡があり、どれも地元の方の言い伝えなどによるものです。
地域とのつながりから須磨本来の魅力を発信
—須磨寺から綱敷天満宮までを結ぶ「智慧の道」をご提唱されたのは小池会長様だとか。
小池 はい、天神さんは菅原道真公、須磨寺は弘法大師空海という、天才であり筆の名手が奉られてあるので、それぞれの知恵の守り神を結ぶ「智慧の道」とさせていただきました。受験をひかえた皆さんには、「通ると通る」、つまりこの道を通ると(試験に)通るといっていますので、ご利益があるかもしれません。「知識」と「知恵」は違います。知識を自分の力として、他のために使うのが知恵です。
—今後、どうしていきたいとお考えのことはありますか。
小池 去年辺りから桜復活に力を入れているのですが、紅葉ももっと考えていきたいと思っています。妙法寺川沿いは、桜が有名ですが紅葉もきれいです。須磨寺からから離宮公園までいき、海まで歩いて海浜水族園にも立ち寄れて、須磨は一日歩いて楽しめる所です。犬の散歩では水族園まで散歩することもあり、思うのですが、須磨の海には休むところがないのです。夏は海の家があっていいのですが、春の風、秋の風を感じながら、休憩できるところがあればいいなとは思うのですが。そういうところがあれば須磨の海はもっと見直されるのではないかと思っています。昨年からドルフィンコーストをやりはじめて、東の方は家族連れが多い雰囲気ですよね、子供さんたちが安心して行けるような海岸になればいいと思います。
私も須磨観光協会の会長になるまでは西須磨と東須磨辺りしか想像していなかったのですが、全体を見回してみると素晴らしいですね。板宿には大きな商店街があり活気がありますし、多井畑にも素晴らしいお祭りがあり、妙法寺にも文化財がたくさんあります。白川もニュータウンと呼ばれていますが、ちょっと外れると昔のたたずまいが残っています。それぞれの地区に魅力があります。
—自然豊かな須磨ならではの活動も盛んですね。
小池 近くの川にも地域の方が蛍を飛ばしていますし、日本固有の亀の繁殖や、カブトムシの養殖などいろいろな活動があります。自然志向も高まっていますので、神戸の中の須磨も違ってくると思います。須磨は教科書にも出てきますし、皆さんが大事にしてきた場所です。ぜひ皆様にも須磨に訪れていただき、800年前の出来事に思いを馳せていただきたいと思います。