2017年
5月号
ミツバチの活動が鈍い早春に採取される桜のハチミツは、非常に貴重なもの

連載 ミツバチの話 ⑩

カテゴリ:医療関係, 神戸

さくらのハチミツ

藤井内科クリニック 藤井 芳夫

桜蜜の採取は難しい

 桜の季節も終わり、そろそろ採蜜の季節。
 昨年は養蜂歴6年にして初めて桜の香り漂うハチミツを収穫できたが、今年も期待するところである。
 桜の開花は4月の短い期間であり、まだ寒の戻りもある。ミツバチは寒い間はほとんど巣から出ることなく、おしくら饅頭(蜂球)になって冬を越すが、すでに中心は春に向けて産卵、育児が行われている。
 春に向けての活動が盛んになればなるほどミツバチの食糧である蜜の消費は多くなる。しかし、外は寒くて蜜を集めに行くことが出来ないので、備蓄している蜜がなくなれば全滅してしまうこともある。巣の中の温度は35℃に保たれているが、一番外側にいる蜂の体温は低くなる。ミツバチは巣箱の中にいるときは外気温が10℃以下になっても影響は少ないが、体温が15℃以下になると低体温麻痺を引き起こし、筋肉を震わせて体温を回復することも出来なくなる。人では直腸温が35℃以下は低体温とされ、25℃以下に陥ると命に係わる。低体温を避けるため、ミツバチはおしくら饅頭で蜂球を作っても、一番外側の蜂の体温が17℃になるように皆で協力して温度調節する。つまり最も体温の低い一番外側の蜂が活動できる温度を維持しているのだ。
 その熱源は筋肉運動と代謝熱である。筋肉運動といっても筋トレのような運動をする訳ではない。翅を動かす飛行筋を長さを変えずに収縮させ体を震わせて熱を産出するのだ。熱エネルギーの元は備蓄したハチミツである。大切なハチミツだ。その意味で桜の季節にミツバチから蜜を取り上げるのは難しいし可哀そうである。前述のごとく寒の戻りがあるとミツバチはその寒さで外へ行けなくなるからだ。

ソメイヨシノは
ハチミツ採取に向かない

 さて桜のハチミツは色が濃く、強い花の香りがして濃厚で少し苦みもある。コーヒーに非常によく合う。店ではなかなか手に入りにくい。昨年ハチミツを友人に試食してもらったとき、「これ桜?」と言われたときは感激した。濃厚な桜の香りといってもそう簡単に分かるものではないが見事言い当てた。桜と言えば、「ソメイヨシノ」と思っている人がほとんどであるが、実はソメイヨシノはほとんど蜜を出さない。
 では桜のハチミツとは?そこで今回は桜とくに「ソメイヨシノ」のお話をミツバチ師匠の春井さんにしていただいた。要約すると、ソメイヨシノは江戸時代末期から明治時代にかけて、江戸の染井村の造園職人や植木職人たちによってエドヒガン系の桜と日本固有のオオシマザクラの雑種との自然交配で生まれた単一または数本の樹木を起源としたクローンである。え?クローン?身近で一番分かりやすいクローンは一卵性双生児だ。人格はそれぞれ違うが、体は全く同一の遺伝子から出来ているクローンだ。
 ソメイヨシノは花が先に咲き、可憐な姿なので園芸品種として「接ぎ木」(これがクローンになる)により全国に広がった。初めは西行法師の和歌に因んで「吉野桜」として売られたが、吉野山には種類の異なる山桜が多く、混同を避けるため染井村の名を付けて「染井吉野」というようになった。ソメイヨシノはクローンであるためソメイヨシノ同士では結実しにくく、結実しても発芽しない。各地にあるソメイヨシノは全て、人の手で接ぎ木や挿し木の技術を使って増やしたものであり、種をまいて作ったものではない。現在のソメイヨシノはほとんど全てクローンなので、ほぼ同時期に開花し散ることになる。ソメイヨシノは冬の低温に接してから気温が上がるに従い開花するので「桜前線」という言葉が生まれた。皆さんご存知でしたか?え?毎年桜の季節になるとNHKで解説されているって?しかし、私はソメイヨシノがクローンだなんて知らなかった。ソメイヨシノは明治以後さかんに植樹され、戦後すごい勢いで広がり、我が国で最も知られた桜となった。

植物とミツバチの
give and takeの関係

 動くことのできない植物は、子孫を残すため花を咲かせ、おしべにある花粉をめしべに受粉させなければいけない。そこでイネのように風によって受粉させる仕組みを発達させた風媒花(ふうばいか)と、昆虫などによって受粉させる虫媒花(ちゅうばいか)に分かれた。ここまでは小学校の理科の授業で習ったと思う。
 さて、受粉のための花粉は動物の精子と同じでタンパク質であるが、受粉させるためには少しの量でよいので、残りの花粉をタンパク源のエサとして昆虫を呼び寄せることができると植物は考えた。さらにエネルギー源を供給するために蜜腺を発達させて、花蜜を出し文字どおり「甘い汁」で昆虫を誘いこみ、昆虫が花の中でもぞもぞ動いているうちに、体に付いた花粉がめしべにくっ付いて授粉させる仕組みを確立するまで進化した(自家受粉)。
 また、植物のなかでも近親交配を避け、多様な遺伝子を得るために自分自身の花粉では種子(子孫)ができないものも現われた。その場合、自分の花粉をできるだけ他の花に付け、逆に他の花の花粉をもらわなければいけないので、より一層、美味しい蜜を出す魅力的な蜜腺を発達進化させた植物も多くなった。
 ミツバチの場合、花粉はおもに子育てのためのタンパク質(肉)として、花蜜(炭水化物)はミツバチの持っている酵素でハチミツに変換し、長期間保存できる貯蔵食・エネルギー源になる。つまり植物とミツバチの利益が一致し両者間には、Give and Takeの関係が成り立っている。

桜蜜を採取するのは
心苦しい

 もとに戻ってソメイヨシノの場合は、クローンのため結実して子孫を残す必要がなくなったので、昆虫を呼びよせて授粉させるための蜜を出す機能が衰えている。サクランボも余り出来ない。従ってソメイヨシノのハチミツは期待できない。またクローンであるが故、寿命も他の桜に比して短い。
 一方、「山桜」の系統や「八重桜」の系統はクローンではないのでよく花蜜が出る。これで桜のハチミツはソメイヨシノ由来ではないことをご理解いただけたと思う。そう、桜のハチミツは山桜や八重桜のハチミツだと云うことだ。山桜の系統や、八重桜の系統はソメイヨシノの開花期よりも少し遅くなる。しかし桜が咲いても、八重桜の花が咲いて蜜が出ていても、寒い日が続いているとミツバチの建勢(建群)が追い付かない。通常の年は、サクラの蜜を利用してミツバチが子育てして増えていくことが多く、その段階では桜の蜜を取り上げることは出来ないのが現状だ。

 桜散る再起祈る桜蜜。

桜のハチミツは色が濃く、濃厚な香りと少しの苦味をもつ。ソメイヨシノはあまり蜜を出さず「山桜」や「八重桜」が、桜のハチミツの蜜源となっている


ミツバチの活動が鈍い早春に採取される桜のハチミツは、非常に貴重なもの



藤井内科クリニック
藤井 芳夫
〈2017年5月号〉
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