5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第七十二回
明石市民フォーラム
「終のすみかはどこですか? PART1」について
─明石市医師会のフォーラムとはどのようなものですか。
安尾 明石市医師会では毎年、医療や介護に関する疑問や問題点を採り上げ、第1部は専門家による講演、第2部や第3部では地元明石で医療や介護に携わる専門家の方々を交え討論するフォーラムを行っています。昨年11月22日に明石市民会館で、『終のすみかはどこですか?Part 1』をテーマとして第19回のフォーラムを開催しました。
─第1部はどのような内容でしたか。
安尾 『地域包括ケアシステムとは?』と題し、兵庫県障害者福祉課長の津曲共和氏にご講演いただきました。『地域包括ケアシステム』をわかりやすく言うと、住み慣れた地域でいつまでも自分らしい尊厳のある生活ができるような“まちづくり”であるとおっしゃっていました。昔と比べ寿命が延びてきており、退職してから最期の時までをどのように過ごすかが問題になってきています。高齢化に伴い、医療や介護などの社会保障費が膨れ上がり、毎年1兆円ずつ増加しています。公費だけでは、高齢者を支えきれませんので、NPO法人やボランティア、住民同士の支え合いといった地域での支え合いが必要です。地域ごとのニーズに合ったサービスが提供されるように、市町村が主体となり、縦割りではなく垣根を越えた連携が行えるシステムをつくり上げていかなければなりません。そのシステムづくりのために、各地で行われている具体的な事例も交えお話していただきました。
─第2部はどのような内容でしたか。
安尾 いろいろな問題で自宅への退院が困難であった3事例を紙芝居で紹介しました。事例1は85歳の身寄りのない独居男性。在宅酸素が必要ですが認知症のため操作がわからず、薬の服用もできないため自宅への退院は困難と判断されたものの、療養型の病院は身寄りがなく薬品も高額なため受け入れてもらえず、施設も年金では足りないため断られました。事例2は脳梗塞で麻痺が残って車椅子生活になってしまった69歳男性。奥さんと高台の自宅で暮らすものの、階段が上れないため自宅で生活できなくなった例です。事例3は結婚歴のない82歳の独身女性。40ほど年前に家を建て、貯金でリフォームしたものの体を悪くして動けなくなってしまったので老人健康保険施設に入所しました。しかし病気がちで入退院を繰り返し、さらに糖尿病の悪化で人工透析が必要となり、薬代も高くなったので老健施設にも自宅にも戻れなくなった例です。
─以上の事例を踏まえ、第3部のシンポジウムがおこなわれたのですね。
安尾 はい。明石市医師会副会長の橋本寛先生と明石市広報委員会委員長の石田義裕先生の司会進行により、講演していただいた津曲氏、前明石市長で県議会議員の北口寛人氏、明石市医療センターの社会福祉士の松葉薫里氏、兵庫県介護支援専門員協会明石支部支援専門員の永坂美晴氏をパネリストに迎え討論していただきました。
─事例1と2はどのような解決方法がありましたか。
安尾 事例1については小規模多機能型居宅介護サービスを利用しながら自宅で生活できるようになり、事例2では明石市の住宅改造の制度と介護保険の住宅改修の制度を利用して家をリフォームし、自宅で家族に支えられ生活できるようになったそうです。
─事例3はどのような点が問題だったのでしょうか。
安尾 身寄りのない人が施設入所後に家をどうするのかという空き家問題と、入所後も入退院を繰り返したり病状が悪化したりすると施設に戻れなくなるという問題です。明石市では高齢者が抱えるこのような問題をできるだけ1か所で相談できるワンストップサービスを提供する仕組みがあります。病院によってはメディカルソーシャルワーカー(MSW)が在籍し、患者が何らかの理由で自宅に帰ることが困難な場合、在宅医療や転院先を提案してくれます。この際、本人の意志を尊重して決めるべきですが、病気の状態や家族の意向によって決定せざるを得ない場合があります。ですから、年を取ってからどうなりたいのかを、日付を付し遺言状のように書面にしておくことが良いのではないかという提案もありました。
─ほかにどのようなことが議論されましたか。
安尾 年を取ってからの転居について討論がありました。体が不自由になりバリアフリーの住宅への転居が必要な場合がありますが、高齢者は転居により認知症を招くこともあるため、できるかぎり住み慣れた地域で暮らすのが望ましいとの意見がありました。また、高齢者施設では手取り足取り介護されることで認知症の悪化や運動能力の低下を招くこともあるため、デンマークでは高齢者施設をつくるのをやめて高齢者向け住宅の建設を進めているそうです。一方、日本では高齢者住宅は国土交通省の管轄であり、介護支援は厚生労働省の管轄と縦割り行政のため、介護を必要とする高齢者向けの住宅施策が立ち遅れているという議論もありました。地域包括ケアシステムの大きな柱として、低所得高齢者のための住宅政策を真剣に考えなければいけない時期が来ているのです。
─フォーラムの内容をもっと詳しく知ることはできますか。
安尾 明石市医師会のホームページから動画などを公開しています。ぜひご覧下さい。
明石市医師会ホームページ
http://www.akashi.hyogo.med.or.jp/