3月号
Power of music(音楽の力) 第3回
ジョアキーノ・ロッシーニ
『ロッシーニ風ステーキの謎』
上松 明代
今月の音楽の力は、クラシック音楽家の中でも一風変わった経歴を持った作曲家、十九世紀に活躍したイタリア出身のジョアキーノ・ロッシーニ。
厚めの牛フィレ肉に塩胡椒を振り、両面をバターで焼いた上にフォアグラと薄切りトリュフ三枚をのせた【ロッシーニ風ステーキ】。何故、料理にロッシーニの名が?
イタリア人らしい陽気なロッシーニは、特にオペラ作品に定評を持つ。人気の代表曲『ウィリアム・テル』序曲の一部抜粋部分はきっと誰しも一度は耳にしたであろう、文明堂カステラのCM曲だ。
二十歳そこそこでオペラが次々に大当たりし、人気作曲家に仲間入り。才能はあるが貧困に苦しんだ大作曲家が多い中、金銭的に潤っていたという非常に珍しい事例を持つ。 大金を手にしたからか、三十七歳にして早々オペラの作曲から引退。その理由が面白い。彼は美食を追求するため引退したのだ。しかもトリュフを探す為の豚の飼育にまで手を出して。元々美酒美食家であったのだが、引退後は自ら厨房に立ち、新しいレシピを考案するという「食の改革者」でもあった。そして出来た【ロッシーニ風ステーキ】。豚の飼育も頷ける。だって、最高級のトリュフが必要だったんだもの。この徹底ぶり、その探求心に脱帽。
音楽(聴覚)は、膨大な記憶の集積回路の中から、聴く人の感性や記憶に共鳴し、感動と興奮を与える。これは音楽に留まらず、五感全てに当てはまる。ロッシーニは五感のうち「聴覚」「視覚」「味覚」「嗅覚」の四つまでも充足させてくれる。
音楽界と料理界に名を残し貢献するという偉業を成し遂げた彼は、今もなお自分の生み出した「作品」たちが愛され続けていることを明朗に見守っているだろう。雲の上から。神戸ではどこでロッシーニ風ステーキが食せますか?
うえまつ・あきよ(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。在学中にハンガリーの「音楽」と「民族」に魅了され、卒業後ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。31歳で知的好奇心から兵庫教育大学大学院で作曲を学ぶ。演奏活動と同時にバイタリティー溢れる作曲活動も展開中。六甲在住。音楽に対する想いは烈火の如く!
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com