2016年
3月号
淡路の弁天さんと親しまれる厳島神社

「神まつりの源流」が淡路島に

カテゴリ:淡路島, 見どころ

淡路と出雲、神話の舞台をつなぐものとは

今回の「松帆銅鐸」発見について、地元の研究者はどのように考えているのか。
厳島神社宮司であり、島内の遺跡調査に携わる浦上雅史宮司にうかがった。

 昨年春に淡路島から出土した「松帆銅鐸」はじめ、これまで淡路から出土している銅鐸は、古い型の銅鐸ばかりです。古い型は祭祀の際に音を鳴らすなどしていたと考えられる「聞く銅鐸」です。銅鐸は新しくなるに従って装飾が豪華で、大きなものになり、それらは「見る銅鐸」へと変化します。このたび出土の銅鐸すべてに、内部に音を鳴らすための舌がつき、銅鐸内部の裾の付近が磨耗していることから、舌で実際に音を鳴らしていたということが確認されました。
 こういった古い型の銅鐸は、これまで島根県出雲市神庭荒神谷(かんばこうじんだに)、福井県井向(いのむかい)からしか出ていません。淡路の場合、舌がついたままでの出土でしたから、「銅鐸の機能を保持したまま埋められた」というのが、淡路独特ではといわれています。
 島根県では、前出の荒神谷の近くの加茂岩倉遺跡から、39個もの多数の銅鐸が発見されています。
 また、荒神谷遺跡では銅鐸とともに、青銅の武器である「銅剣」358本と、銅矛16本が発見されました。淡路の松帆では同じ慶野松原から銅剣14本が発見されています(古津路(こつろ)銅剣)。青銅の武器も銅鐸と同様に神器だったのでしょう。銅鐸と銅剣が近くに埋納されていたということは、私は銅鐸が地の霊、豊穣の霊を祀る神器で、銅剣や銅矛は邪悪なものを祓う神器であったと考えています。 銅鐸と青銅の武器、これらは、弥生時代の人々が信仰した「神まつり」に欠かせないものであったのでしょう。
 こうして見ますと、全国で最多の銅鐸が出土し、銅剣や銅矛が出土している島根県は、旧出雲国です。そして淡路は旧淡路国。淡路は「国生み神話」、出雲は「国譲りの神話」と、どちらも、日本神話が色濃く伝承される地です。全国的にも古い型の青銅祭器が出土している地であるふたつの地が、銅鐸や銅剣の祭りを行っていた先進の地であり、そのことが豊かな神話の伝承を生んだともいえるでしょう。
 そしてまた松帆銅鐸発見において特徴的なのは、海辺の平地から出土したということです。これまで銅鐸は山中の奥に埋納されているのが一般的で、平地で、ましてや海辺での例はまったくありませんでした。このことについて、奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長・難波洋三先生は新聞で「淡路の西岸は瀬戸内の交通の要で、重要な場所だった可能性がある」と述べられています。さらに「淡路は近畿の西端という現代の既成概念を覆す刺激がある」とも述べられています。
 大陸からの新しい文化は西から入ってきたと考えられます。海の路をわたって文化が伝わるとすると、瀬戸内の東端にある淡路島は西と東の文化が交錯する中継点の役割を果たしていたとも充分考えられます。
 私は神社の家に生まれましたが子どもの頃から考古学が好きで、島内あちこちの遺跡を巡っていました。宮司になり地元の洲本に戻ってきてからは、洲本市教育委員会として洲本を始め淡路島の多くの遺跡調査に関わらせていただきました。また洲本城の石垣の発掘・保存にも携わりましたが、あの石垣は穴太衆(あのうしゅう)の末裔といわれる大津の石工さんたちに来ていただいて修復しています。洲本城跡のある三熊山は、瀬戸内海国立公園に属していて森林が保存されているために、石垣を傷める樹木などを、簡単に取り払ったりできないので、そういった苦悩もありますが、歴史の宝庫である淡路島の遺跡や、遺物をきっちりと後世に残していかなければと思います。
 私たちの日常生活は、先祖が積み上げてきたものの上に成り立っています。ですから過去を踏まえずに、未来を考えることはできません。先祖の暮らしや、行っていたことを資料から読み解いていくにつけて、日本人としての良さや誇りが感じられることも非常に多いのです。

淡路の弁天さんと親しまれる厳島神社

淡路の弁天さんと親しまれる厳島神社


厳島神社からのぞむ洲本城跡と石垣

厳島神社からのぞむ洲本城跡と石垣


淡路の慶野松原付近から出土した「古津路銅剣」 兵庫県立考古博物館蔵(同館にて3月27日まで展示中)

淡路の慶野松原付近から出土した「古津路銅剣」
兵庫県立考古博物館蔵(同館にて3月27日まで展示中)

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〈2016年3月号〉
「神まつりの源流」が淡路島に
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