6月号
レクサスと日本のモノづくり ②
手が仕上げる一足で未来への一歩を歩む
カワノ株式会社
代表取締役社長
河野 忠友 さん
食い倒れの大阪、着倒れの京都に対し、神戸は履き倒れの街だ。
そんな靴の産地でひときわ輝く婦人靴メーカー、カワノ株式会社は自社で4つのブランドを展開、確かな品質と洗練されたデザインは全国的に評価が高い。
世界に開けた神戸には海外の事物があまた入ってきた。靴もそのひとつだが、ヨーロッパと日本では当然、履く人の足の形も使用環境も違う。神戸には西洋のものをジャパナイズし進化させるものづくり文化があるが、カワノもまたその担い手だ。
ラバーシューズの製造をはじめたのは今から97年前。昭和30年代には女性の社会進出に応じて婦人靴に注力、ケミカルシューズから革靴へと舵を切り、昭和60年代には自社ブランドを構築し流通形態を革新。時代の潮流を機敏に読みながら、履く人の安全と健康を重視しつつ、「素材なきデザインはない」という哲学を貫いてきた。
商品は靴なのに、主役は「足」ではなく「手」。皮革は天然素材ゆえ品質が均等ではないが、その微妙な違いを感知しアジャストするのは職人の手だ。機械を用いる工程でも、そのオペレーションは人の手。そして最後、手の感触を頼りに素材の艶や質感を出して仕上げていく。
愛車が2台続けてレクサスLSという4代目社長の河野忠友さんはトヨタ車の生産工場を見学した際、「その姿が人間のように見えた」と溶接ロボットに感銘を受けて靴の生産ラインにロボットを導入できないかと考え、産学連携のもと近い将来実現しそうだという。手仕事主義とは矛盾はしない、ロボットに任せるべきところは任せて、熟練の職人の手という得難い資源を重要な工程に集中させてさらなるクオリティの向上を狙うのだ。歴史と技術という力で自らの靴紐を締め直して道なき道に挑み、未来へと歩むカワノ。1世紀のマイルストーンはもうすぐだ。
■BARCLAY 三宮(直営店)
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