12月号
みんなの医療社会学 第二十四回
消費税増税が医療崩壊の引き金に
─現在、医療費に消費税はかかっているのでしょうか。
山根 現状の制度では、医療費は消費税の課税対象ではありませんので、かかっていません。しかし一方で、医療機関が購入する薬や医療機器には消費税が課税されています。一般的な消費税は業者が消費者から消費税分を回収し、仕入れにかかった消費税分をそこから差し引いて納税するか還付を受けます。しかし実際、医療機関は仕入れた薬品や機器などにかかる消費税を支払っていますが、それを回収することができないのです(図1)。日本医師会の調査によれば、医療機関の控除対象外消費税が社会保険診療の売上げに対して平均2.2%、日本中の医療機関全体で少なく見積もっても2330億円にものぼる不合理な消費税分の負担、いわゆる「損税」となっています。損税の額は1病院あたり約3~7千万円、大学病院では5~6億円と金額が大きいこともあって、この不平等な制度は問題視されており、控除対象外消費税問題または損税問題とよばれています。また、実際に兵庫県民間病院協会が裁判をおこしています。
─消費税を導入している他国の例を教えてください。
山根 イギリスやドイツでは医療費は非課税ですが、ほとんどの病院は公的病院なので損はしません。カナダでも医療費は非課税ですが、医療機関の仕入れにかかった消費税分は控除あるいは還付がなされています。
─この損税について、国はどのように考えているのですか。
山根 国は、消費税が税率3%でスタートした平成元年に12項目、税率5%になった平成9年に24項目の診療項目の診療報酬に対し、医療機関の仕入れに支払う消費税に相当する金額として、それぞれ0.76%と0.77%の合計1.53%を上乗せしていると説明しています。これに関してはまず、患者さんに見えない形で上乗せがおこなわれたという問題があります。また、前述のとおり損税は平均で売上げの2.2%ですので1.53%の上乗せでは不十分です。しかも実際にいまの段階で、その対象の項目がマイナス改定や包括化、項目廃止となり、上乗せ分は有名無実となっています。そのような状況に対し国は、問題意識はあるものの、具体的な解決策について最終結論を出していません。
─消費税が増税されると、医療にどのような影響が出てくるのでしょう。
山根 消費税が5%から10%と倍になれば損税も倍になりますから、このままの制度では売上げの4.4倍、医療機関全体で4660億円、1病院当たり6千万~1億4千万円の負担を強いられることになりますので、医療機関の倒産が相次ぎ、地域医療や国民皆保険制度の崩壊がおこる恐れがあります。ですから増税前にしっかりとした対策が必要なのです。
─兵庫県医師会は消費税の増税に賛成ですか、反対ですか。
山根 あくまでも損税問題を解決することが前提ですが、医療をはじめとした社会保障を支える財源は不足していることから、消費税増税そのものに関しては仕方ないと考えています。基本的に賛成の立場です。経営が困窮する医療機関を考えると、むしろそれだけでは財源が足りず、たばこ税や健康保険料の増額も検討しなければいまの医療水準を維持できないと危機感を覚えています。
─兵庫県医師会は損税問題をどのように解決すべきだと考えていますか。
山根 結論的に言うと、「ゼロ税率」の導入です。医療費をいったん消費税の課税対象にすることで、医療機関が仕入れに払った消費税を控除することが可能になります。一方で患者さんの負担増があってはいけませんので、医療費にかかる税率をゼロにするものです。患者さんからすると非課税とゼロ税率は医療費に消費税額を支払わないという点では同じですが、医療機関からすれば通常の課税取引となりますので支払った消費税が控除対象になり、損税がなくなります。実現のためには法改正が必要となります。いまの医療を守るためにも、みなさまのご理解とご協力をお願いいたします。
山根 敏彦 先生
兵庫県医師会常任理事
山根整形外科・外科