2012年
12月号

地域の要のお寺を目指して

カテゴリ:, 文化・芸術・音楽

臨済宗 瑞龍寺 住職 矢坂 誠徳さん

瑞龍寺は阪神・淡路大震災で大きな被害を受け、2008年に完成した、新本堂と納骨堂「安心院(あじむ)」で、地域の人たちに安心を与える寺として新たにスタートした。11月7日、「祈りの花いちりん・100」がリレー展示されている瑞龍寺を訪ね、矢坂住職に生かされた教訓や今後への抱負などお聞きした。

─「祈りの花いちりん・100」展示までの経緯は。
矢坂 東日本大震災の犠牲者への追悼と、ご遺族が花を見て心を癒し元気になっていただきたいという趣旨です。このプロジェクトに専念されている東灘区在住の画家がおられると、仏教ボランティアの会からお聞きしていました。プロフィールを見て、20年ほど前、釈迦誕生仏像を描いていただいた立岡佐智央先生だと気づき、とてもいいお話ですので是非協力させていただこうと展示することになりました。絵は来年2月まで全国のお寺や教会を巡回し、被災地のお寺を通してご遺族にお渡しすることになっているそうです。
―18年前、ここ瑞龍寺も阪神・淡路大震災で全壊したそうですね。
矢坂  地震の揺れで全壊したわけではないのですが、建物が傾き、いつ倒壊するかわからないという状態でした。ご遺体の安置所にすることもできず、ご近所の方も駆け込んで来られたもののかえって危険とお帰りいただくことになりました。最終的に、建物が倒壊してご近所に迷惑がかかることがないように、2月中に解体しました。
―その時の教訓は。
矢坂 私にできたのは、JR兵庫駅前の安置所のご遺体にお経をあげに行くことくらいで、「何もできなかった」という思いでいっぱいです。私たち自身も被災者でしたのでご近所さんと協力し合うことはありましたが、宗教者として何かできることがあるのではないかと忸怩たる思いでした。全国には仏教会や仏教ボランティア団体がたくさんあり個々に炊き出しをしたり、今でも慰霊祭などをしていますが、これらが横の連絡を密にとって協力し合うことが大切だというのが教訓でした。
―その教訓は生かされていますか。
矢坂 地域の要という役目を担うお寺として「何かをしたい」という思いを形にできるようにしなくてはいけません。そこで東日本大震災では、被災した寺院を支援することを通して地域を支援するという形をとり、義援金や物資をお寺から配っていただくようにしました。
―新本堂に込められた思いも大きいのでしょうね。
矢坂 もちろん鉄筋づくりの耐震構造、バリアフリーですから、災害時には皆さんの避難所になりますし、3階建てですから津波がきても避難できます。昔から、生まれた時にはお寺で名前を付けてもらい、子供はお習字やそろばんを習いに行き、結婚式もお葬式もお寺で…と、幸せな時も困った時も何かあれば「お寺に行ったらいい」という存在でした。そんなふうに、地域のコミュニティセンターになったらいいなと思っています。

―「安心院 納骨壇」を造るに至った経緯は。
矢坂 檀家さんの納骨堂は以前からあったのですが老朽化していましたので、新築を機に「安心院」としました。今は宗教離れが進み、仏壇がないという家や、お墓や仏壇を引き継ぐ人がいないという家も多いですね。そこで、お寺がある限りは永久にお骨や位牌をお預かりすることで、ご本人もご家族にも安心して充実した生活を送っていただこうというものです。先代住職の出身地大分県宇佐市の安心院町から取って名づけました。
―なぜ最近は、宗教離れが進んできたのでしょう。
矢坂 私が子供の頃、祖母から「ちゃんと供養しなかったら化けて出たる」と脅かされたものです。そこで、「浮かばれない仏さんを作ったらいかん」「ちゃんと供養しなかったら地獄へ落ちる」と学びました。それは、ご先祖様や多くの人の為につくす行為が自分の心を美しくして幸せになるのだと言うことです。今は、親からそういう教育を受けていないからでしょうね。人づくりの一片を担うお寺にもその責任はあると思っています。
―これからのお寺はどうあるべきなのでしょう。現代人はどう関わっていけばいいのでしょうか。
矢坂 お寺も、門をくぐりやすくて親しみやすくしなくてはいけないでしょうね。住職も難しいことばかりではなく、「普通のオジサンだけど、いいこと言ってるな」程度でないと(笑)。話しやすくて、お寺へ行ったらなんか元気になる、幸せになったなというところから入っていただけたらいいと思います。
―地域に向けてのイベントなどは開催しているのですか。
矢坂 今のところ単発で講演会やイベントを開催する程度です。落語会や音楽会など続けて開催できるようにしたいとは思っています。
―臨済宗といえば坐禅ですが、ご住職はどちらで修業をされたのですか。
矢坂 平野の祥福寺で山田無文老師・河野太通老師お二人の下で修業をしました。
―瑞龍寺では坐禅会など開いているのですか。
矢坂 定期的なものはないですが、ご希望があれば坐禅体験をしていただくことは可能です。
―地域に開かれてお寺として皆の心のよりどころになってください。
本日はありがとうございました。

矢坂 誠徳 (やさか せいとく)

瑞龍寺住職
1952年2月18日京都市生まれ。花園大学文学部国文学科卒業、神戸平野の祥福寺専門道場にて修業。社団法人神戸青年仏教徒会第8代理事長。全日本仏教青年会第12代理事長。神戸西ロータリークラブ会員。

3.11東日本大震災犠牲者追悼 ー鎮魂ー祈りの花いちりん100


花いちりん 画家の立岡佐智央

臨済宗 瑞龍寺

〒652-0872 神戸市兵庫区吉田町3丁目5-7
TEL.078-681-1842 FAX.078-681-2022

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