3月号
観る人の心の模様がキャンバスにストーリーを紡ぐ 青栁紀幸の世界
キャンバスを照らす光線がカラーをまとい、清明な彩りとなって眼を癒やす。しかし、パステル画ではない。水彩画でもない。実は、油彩画だ。淡い色のなかに、ほのかな陰影が浮かぶ。薄く重ねられた絵の具のハーモニーが、物語を紡ぎゆく。
「小さい頃から絵が大好きで、将来は画家になると思っていました。根拠はありませんでしたが、なぜか自信はありましたね」と笑う青栁さんは学生時代、あえて美大や美術部などに属せず、ラグビーに夢中になっていたという(作風からは想像できないが…)。その後、デッサンの基礎だけは名門・大阪市立美術館美術研究所で身につけはしたものの、油彩は独学。感性を信じ、試行錯誤を重ねて練達。誰にも真似できないスタイルを編み出した。
描くモチーフは、パリをはじめとするフランスの街角。年に数回現地へ出かけ、アパートを拠点に街を歩き、スケッチを続ける。「滞在中は絵になる場所を探し、ひたすらスケッチですよ。美術館に行くときだけが休息です」と青栁さん。自身が最も好きな作家は、オルセーを彩る印象派、中でもモネだというが、フランスの街を描く理由もそこにポイントがあるようだ。
日本とは違い、フランスの街、特に裏路地などは昔と景観がそう変わっておらず、モネたちが筆を握っていた時代の空気感をとどめている。そこにロマンを感じるだけでなく、「この先もきっと変わらないでしょう。だから五十年後、百年後の人たちにも、今と同じ感覚で絵を観てもらえるのが魅力です」と、将来はパリにアトリエを構えることが目標だという。
描かれているのが古い街といっても絵に油絵の重さはなく、自然にその世界に入っていけるため、描かれている人物に思わず自分を投影してしまう。少しもの寂しい感じを受けるかもしれないが、そこには恋愛の切なさであったり、旅先での郷愁であったり、観る人それぞれの心の有り様が映され、絵の放つやわらかな色彩が心を包む。そう、観る人の心とともにある芸術なのだ。
19世紀に印象派の画家たちが起こした絵画の革命はまだ続いている。彼らと同じ道具を使い現代の画家が描くフランスの街の何気ないシーンとの出会いが、あなたの想像力に翼を授けてくれるだろう。
青栁 紀幸(あおやぎ としゆき)
1973年生まれ。関西学院大学文学部美学科卒。大阪市立美術館美術研究所で木炭デッサンを学ぶ。2002年に大阪心斎橋アセンスギャラリーで初個展。以降毎年、同ギャラリーで個展を開催。2006年、東京銀座幸伸ギャラリーで個展を開催。2009年、名古屋アートスペースA1で個展を開催、以降東京、名古屋で定期的に個展を開催。2015年は芦屋・平田町のギャラリー開雄にて個展を開催予定。アートイベントにも積極的に出展。ポストカードも人気がある。
ブログ「青ヤギさんからの手紙」
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