3月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第四十七回
交通事故に遭ったらどうすればいいの?
人身事故届けと医療機関受診でトラブル防止を
─近年、交通事故による死傷者は減っていると聞きますが。
山下 確かに減少傾向にありますが、それでも全国で約79万人、近畿で約13万人の死傷者が発生しています(平成25年度)。不幸にも交通事故でケガをされても、医療機関で治療を受け、無事日常生活に復帰される方がほとんどですが、中には加害者や損保会社との対応でトラブルになる方もおられます。
─交通事故に遭ったらどうすべきなのでしょうか。
山下 初期の対応が重要です。ケガや体に不調がある場合は、なるべく早く医療機関にかかり、診断書を書いてもらって、警察に人身事故として届けておく必要があります。被害者から警察への診断書の提出があってはじめて、人身事故と処理されます。
─人身事故と物損事故は扱いがどう違うのですか。
山下 そもそも自賠責保険(強制保険)は、被害者のケガ等の保障をする保険です。法的には、物損では民法が適用され、もしトラブルになった場合は、被害者が加害者の故意・過失を立証する必要があります。一方、人身では自賠法が適用され、被害者は受傷したことを立証すれば良く、加害者の過失によるものかどうかは、加害者側に立証責任があります。ですから被害者保護の自賠法の適応を受けるためにも、ケガなどをした場合は、警察署に診断書を提出して、人身事故届けを出しておく必要があります。
─物損扱いでも自賠責保険からの支払いがあると聞きましたが。
山下 例外的に、軽微な事故での短期の通院や念のための受診などでは、支払われることもありますが、物損扱いのまま長期に治療をする場合は様々な問題が生じます。物損扱いにする背景には、さまざまな思惑が絡んでいます。物損事故では基本的に、刑事処分・行政処分のいずれも受けませんので、処分や反則金を免れたい加害者の希望だけでなく、損保会社が加害者を守ることで顧客サービスに繋げようとするために誘導するというケースもあります。そして実は警察も、人身事故は処理が煩雑な上、管内の人身事故を数字上少なくできるため物損扱いにしたいのです。被害者にも、届け出が面倒、大ごとにしたくないという心理があると思いますが、交通事故加害者の処分に対する社会的不公平を招くばかりか、被害者への不利益が生じます。
─人身を物損扱いにした場合、被害者にどのような不利益がありますか。
山下 まず、後から心身の不調が現れた場合や、治療が長期化した場合に、賠償請求ができなくなってしまう可能性があります。早期に相手側の損保会社に通院を打ち切られるケースもあり、何より、後遺症が残っても逸失利益や慰謝料が支払われません。物損扱いでは被害者が得することは何一つありませんので、必ず人身事故届けを提出しましょう。
─事故でケガをした場合、接骨院の診察を受けてもいいですか。
山下 必ず医療機関の診断を受けてください。本来、医師以外に禁止されている医療を医師以外の者が業としておこなうことを「医業類似行為」といい、国家資格や保健所への届け出が必要なあん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師(接骨院・整骨院など)のほか、国家資格のない整体、カイロプラクティック、オステオパシーなどが該当しますが、これらは医療機関ではありません。前述のとおり、交通事故でケガなどをした場合は診断書を提出する必要があります。診断書の作成は医師と歯科医師にのみ認められた行為で、接骨院などでは診断書を発行することはできません。また、事故後、あるいは医療機関受診後に長期間にわたって接骨院などにかかっている場合は、病状の経過が不明で症状と事故との因果関係が証明できにくくなり、医療機関が交通事故としての診断書や後遺障害診断書の作成を断る場合がありますので、注意しましょう。
─でも、接骨院の広告に「交通事故専門」とあるのですが。
山下 柔道整復師法により広告の制限があり、「交通事故専門治療院」などの表示は違法広告です。厚労省や保健所も、広告の適正化への注意喚起をしていますが、過剰な違法広告は後を絶たず、誤解を与えるだけでなく健康被害も増えていますので、注意が必要です。交通事故は損害賠償に関わる問題でもあり、裁判例でも適切な医療費の範囲内での賠償が認められることになっています。ことに医師による指示のない施術は治療費として認められない場合があります。後々のトラブル防止のためにも、交通事故によるケガなどの治療は、医療機関でおこなうことをおすすめします。
山下 仁司 先生
兵庫県医師会理事
やました整形外科院長