2017年
5月号

神戸鉄人伝 第89回 洋舞家 貞松 正一郎(さだまつ しょういちろう)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

洋舞家
貞松 正一郎(さだまつ しょういちろう)さん

 国内有数のバレエ団に数えられる貞松・浜田バレエ団。両親が創設した団とバレエ学園の芸術監督を務める、ひとり息子の貞松正一郎さん。踊り手としても輝かしい功績をお持ちですが、今は主に演出や後進の指導にあたっておられます。「指導方法の進化で、日本のバレエも格段にレベルアップしています」と語る貞松さんに、お話をうかがいました。

―バレエ人生の始まりは?
 幼稚園に上がる前から親のバレエ教室に出入りしていましたので、気付いたら踊っていました。4歳からきちんとポジションを仕込まれ、基礎を身に付けました。あの頃はまずは基礎、ひたすら筋トレの時代でしたね。今はリズム体操から習うなどトレーニングも変化しているし、解剖学に則ったやり方で合理的に「細くて強靭な体」を作るのが主流になってきています。

―現在はバレエ男子やスケート選手は人気者ですが、当時はいかがでしたか。
 今でこそ男子のバレエ人口も増えましたが、私が子どもの頃は極めて少数派。タイツ姿をからかわれるのが嫌で、学校ではバレエをやっていることを隠していました。私は決して行動派の子どもではなかったし、運動神経は普通でしたね。人にバレエのことを話せるようになったのは、高校生になってからです。海外のバレエ短期講習などに参加するようになって、目覚めたというか舞台での度胸もついていきました。

―やがて国際バレエコンクールに挑戦するわけですが、コンクールは踊り手にとってどういうものなのでしょう?
 コンクールでは実力者たちと競い合うのですから、刺激にも励みにもなるし、次の段階へのステップになる。ただ無心で踊っていた子どもが、コンクールで賞をとるとその地位を守ろうとして、力が出せなくなってしまうことがあります。コンクールは稽古の成果を出し切ればそれでいい。自分ができることに集中して、自信のあるところを見せる方がよい結果にもつながります。それでもまだ自分より上がいる場合もある、それは運です。

―世界のコンクールに出場してきた方ならではのお言葉ですね。入賞され、それからは?
 1982年にローザンヌ賞をいただき、その後英国ロイヤルバレエスクールに1年留学。そして松山バレエ団に入団、海外公演などに参加させていただきました。神戸に戻って来たのは、29歳の時でした。

―ご両親のバレエ団をともに支えるようになって、舞台公演のほかに力を入れられたのは?
 貞松・浜田バレエ団は古典の全幕と創作リサイタル、クリスマスのくるみ割りなどの大きな舞台のほかに、学校公演を数多く行っています。バレエはいろいろな専門家が関わって創り上げる総合芸術であることを説明し、子どもたちにポジションを体験させたり小品を見せたりする。これは子どもたちにとって貴重な経験であると同時に、団員がこの経験を通して育っていくという側面もあり、大切に考えています。

―ご自身が指導する立場になって思うことは?
 海外の指導者は「ここがいい」とほめる。日本の指導者は「もっとこうしろ」とダメなところを指摘する。私自身、海外で学んだ時にほめてもらったからこそ伸びることができたのです。でもいざ教える側に回ると「これを言ってやらなくては!」という気持ちが先に立ってしまって。もっと大きく構えていいところを言ってあげなくてはと、反省することしきりです。

―貞松・浜田バレエ団のこれからについて一言。
 地方のバレエ団として、地域の人材を育てていきたい。お客様にも、団員たちの成長を楽しみに見てもらえたらと思います。舞台を見た方から「主役を踊った人を子どもの頃から応援していました」という言葉をいただいた時は、嬉しかったですね。私たちはこれからも神戸のお客様とともに成長していきたいと願っています。
            (2016年3月20日取材)

育てられた時代を経て、今度は自分が育てる番になった貞松さん。その目はまっすぐにバレエ団の未来を見据えていました。

「先日、発表会で“眠りの森の美女”の王様役を演じました」と貞松さん。「動かずにたたずまいだけで威厳を示すのは、踊りとは違う大変さがある。どんな役にも苦労があり、おろそかにできないのが舞台です」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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