2011年
9月号
9月号
「消えゆく神戸風景を追って」徳永卓磨展|耳よりKOBE
「最低50年は、風雪に耐えた物じゃないと、油彩で描く対象にはならないと、僕は思うんです」と、徳永卓磨さんは話す。
神戸ドックをはじめ、海辺沿いのバラック、路地、看板、窓など、今も残る数少ない神戸の古い下町の風景を描いた、徳永卓磨展が、7月21日~26日、こうべまちづくり会館で開催された。神戸生まれの徳永さんは、金沢美術工芸大学油画科を卒業後、神戸の市立小学校で美術専科の教師をしながら創作活動を続けた。
若い頃は、新開地の繁華街や、北野の異人館などを描いた。当時の都市整備計画によって、描く目の前から古い異人館が壊されていくのを目にし、一時は描くのをやめたこともあったという。29歳のときに学校を辞めてスペインに1年間留学、以降、毎年スペインに渡って、風景画を好んで描き続けてきた。帰国後は路地や異人館などを描いたが、震災後、改めて神戸中を探し回った末、「西出町、東出町、東川崎町周辺しか、もう描きたい場所は残っていなかった」と話す。
中でも神戸ドック工業第1ドックを中心とする風景を愛し、現場に通って描いてきたが、もはやその風景も、現在では第2ドックしか残っていない。
「廃墟一歩手前の建物が好きなんです」と徳永さん。あの頃の神戸風景は、徳永さんの絵でしかもう見ることはできない。食堂やたばこ屋の看板、そびえたつ煙突、廃墟となったクレーン、どこか懐かしい風景を描く、骨太な油絵の具の重なりと、失われゆく風景を愛する徳永さんの思いが重なってゆく。絵を見た後は、神戸っ子ならずとも実際にこの地に行き、その空気を吸いたくなるだろう。