2011年
9月号

桂 吉弥の今も青春【其の十八】

カテゴリ:文化・芸術・音楽

なでしこの話

七月十九日の夜、京都で独演会を終えて大阪まで帰ってきた私は助演してくれた後輩二人と、阪急電鉄のハブステーション『十三』で一杯やることにした。改札口から飲み屋までがめちゃ近い、各方面にすぐに帰れるというとこから大好きな街十三。
テレビが見られる庶民的な居酒屋で乾杯をした「今日の独演会お疲れさま、そしてなでしこジャパンおめでとう!」と。前日の明け方になでしこジャパンと呼ばれる日本女子サッカーチームはドイツワールドカップで初優勝を果たしていた。実は十三の飲み屋に入ったのも、その日の朝に彼女たちが日本に帰ってきた時の表情やインタビューを見たいが為だった。あの晩に何十回と流れたなでしこジャパンの姿を見ながら、サッカーが大好きな桂紅雀さんとアメリカとの決勝戦の分析をし、その試合を見なかったという桂吉の丞君を「何故あの試合を見なかったのか」と二人で責めた。俺は夜中の四時前から起きだしてテレビの生中継を見たと後々語れる凄い試合だったのにと説教をしたりして、ゲラゲラ三人で笑いながら幸福な時間を過ごしていた。
そして気づくと居酒屋にいた他のお客たちがなでしこについて語っていたのだ。「あの澤のゴールはどこで蹴ったんやろ」「右足のアウトサイドやて」という話から始まり、一番凄いのは宮間か澤か熊谷か、やっぱりキーパーの海堀やとか。誰が一番可愛いかという話題ももちろん。大阪らしいのは「あの子らは賞金ナンボ貰えるんやろ」というお金の話。ほとんどのテーブルやカウンターで、いや狭い店だったからほぼ全員でなでしこジャパンで盛り上がっていたように思う。もちろん全くの赤の他人同士である。さすがだったのは店のお姉さんだった。「澤ちゃんは偉いわ、絶対あきらめへんかったんやから」と料理を運ぶ度に各テーブルでつぶやき、自身も決して諦めることなく新しい注文を確実に獲得していった。
七月二十六日には島根県松江で、中小企業の社長さんたちの前でしゃべったのだけれど、この会の打ち上げでもなでしこの話でもちきりだった。十三と違っていたのは、会社の経営と絡めてチーム運営の話が中心だったことだ。「いかにして佐々木監督は女子のチームをまとめあげたか」、皆さんがテレビやラジオ、新聞などで得た知識を紹介しあう。最後は、あきらめない組織を我々も作っていかなければならないという各社の決意表明のような感じで解散となった。
十三の片隅から中小企業の集まりがあったホテルまで、全国のありとあらゆる所でなでしこジャパンの優勝は話題にのぼったであろう。それだけ人々の心に彼女たちの姿が鮮烈に焼き付いたのだ、爽やかに魂を揺さぶられたのだ。これは真の国民栄誉賞、誰も異論は無いだろう。
私と紅雀さんは二〇〇三年に、男女それぞれのアテネ五輪壮行試合を見た。「男子よりも女子の方が世界ランキングは上らしいなあ」と会話しながら試合を待った。しかしほんとに失礼な話、期待外れなサッカーだった。あの時にワールドカップで日本が優勝なんてことは全く考えられなかった。
あれから七年、なでしこはコツコツと歩みを止めなかったんだろう、なでしこリーグも日本代表での戦いも。それに気がつかなかった私は恥ずかしい。多くの代表選手が所属する神戸レオネッサの試合も見に行ったこともなかった、練習もうちの近所でやっているのに・・・。近日中に出かけることにしよう。
女子ワールドカップとちょうど同じ時期に男子の南米選手権もやっていたのだけれど、審判を欺いてフリーキックを貰うということばかりで、面白くなかった。「ああ早く次のなでしこの試合が見たい」と思ったものだ。
この日本を救うのは女性なのかもしれない、近頃そんな気がする。なでしこという女神たちが登場したのか。そして、この女神たちはまだ進化を続けている。

KATSURA KICHIYA

桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞

〈2011年9月号〉
フロントアート
600号挨拶
特集 ー扉 グローバル化を支える
世界でサステナビリティの実現を目指す|P&Gジャパン株式会社
健康で明るく楽しい Q・B・B|Q・B・B六甲バター株式会社
フランスのエスプリを日本へ|日仏商事株式会社
桂 吉弥の今も青春【其の十八】
神戸旧居留地ものがたり ー扉
居留地に新たな息吹を|大丸神戸店|神戸旧居留地ものがたり
オフィスは戦前の名建築|日本製麻株式会社
WHAT IS IT? Vol.4 「油断できない」
対談 神戸発ときめきクルーズ
アサヒスーパードライ「うまい!を明日へ」プロジェクト
観光鼎談 ふたつの ルレ・エ・シャトー
神戸から信州松本・扉温泉への旅 「信州の癒しは、感動的です」
わたしの神戸デザイン 最終回
神戸市民とブータン国民 交流あたため30年|神戸ブータン友好協会
神戸のご当地ハイボール 「みなとハイボール」が飲める店 三宮編
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九回
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 50
神戸市歯科医師会会長インタビュー 目指そう!80歳で20本
KOBECCO 2011<信政 誠><田井中 悠美>
スポーツ文化を通して質の高いライフスタイルを創造
草葉達也の神戸物語
神戸鉄人伝 神戸の芸術・文化人編 第21回 陶芸家 小倉 健さん
なでしこジャパン 兵庫県ゆかりの選手7人に 兵庫県より「誉(ほまれ)」賞、神戸市…
KOBEアスリートドリーム! 子どもたちの未来へのメッセージ21
連載 浮世絵ミステリー・パロディ ㉝ 吾輩ハ写楽デアル
[海船港(ウミ フネ ミナト)]観覧車リニューアルで一新した神戸ハーバーランド
触媒のうた 7
「消えゆく神戸風景を追って」徳永卓磨展|耳よりKOBE
青年部を有馬の「憧れの存在」に|有馬歳時記