11月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 52
ここ数年で急増している児童虐待
不自然な傷だけでない虐待のサイン
─児童虐待のニュースをよく耳にしますが、神戸市ではどれくらいの件数があるのでしょうか。
津田 昨年度(平成22年度)児童虐待相談が610件ありましたが、その前年度より229件増ですので約60%の大幅増になっています。神戸市で児童虐待相談件数の統計をとりはじめた平成3年度は27件でしたが、平成10年度になると61件、平成11年度は141件、平成12年は197件というふうに平成10年代に入って急に増えてきました。
平成12年に児童虐待防止法が施行され、以降、児童虐待を発見しやすい立場である学校の先生、医師、児童福祉施設の職員、保健婦などには通告義務が課せられるようになりました。そのような体制になりこれまで見逃されていた虐待が明るみに出たことも件数増加の一因とも思われますが、それを差し引いても虐待件数が増えていることは間違いありません。
─どんな子どもが誰にどのような虐待を受けているのですか。
津田 虐待を受けているのは小学生以下の子どもが多く、虐待者は実母が74%、実父が19%と実の親が9割以上です。虐待内容は暴力や家の外に閉め出すなどの身体的虐待がトップです。それに次いでかつては育児放棄や保護の怠慢、いわゆるネグレクトが多かったのですが、数年前から言葉による脅し、無視、兄弟姉妹間での差別などの心理的虐待が増えています(図1)。
─児童虐待にはどのような兆候がありますか。
津田 子どもに不自然な傷やけがが多い、病気でないのに痩せているなどの身体的な兆候だけでなく、怯えるように泣く、表情が乏しく笑顔が少ない、嘘や不自然な答えが多いなど態度にもあらわれます。不登校や、逆に家に帰りたがらない場合も虐待のサインかもしれません。
親に関しては子どもの話題を避けたがる、子どもを非難する、子どもの扱いが乱暴・冷淡、よく子どもを置いて留守にするといったことなどが挙げられます。また、児童虐待のある家庭は夫婦喧嘩が絶えない、家庭内暴力がある、近所づきあいがなく地域で孤立しているといったことが多いのも特徴です。
実際にそのような兆候を発見したり「虐待かな」と不審に感じたりした場合はもちろん、保護者自身が子育てに不安や悩みを感じた場合にも神戸市こども家庭センターや各区役所の子育て支援室に連絡しましょう(表1)。言うまでもありませんが、子どもの生命に関わる緊急の場合は救急・警察へ通報しましょう。
─医師が児童虐待を発見するケースもあるそうですが。
津田 医療機関での診察や学校や幼稚園・保育所などでの定期健康診断の際に不審に感じ、関係施設に連絡して児童虐待が発見されるケースは少なくありません。傷を負った場所やその形から虐待を察知することは可能です。
医療機関にとって虐待を受けた子どもたちとの遭遇は多くの場合1回限りであり、見逃しは許されません。神戸市医師会としても児童虐待は重要な課題と認識し、早期発見に努め関係機関へ可能な限りの協力をおこなっています。
─児童虐待の防止策について教えてください。
津田 まず大切なのは早期発見・早期対応です。そのためには関係機関と地域や社会との連携が不可欠です。通報者の秘密は守られますので、少しでもおかしいなと思われたらすぐに通報していただきたいですね。
近所に相談できる人がいない保護者が、どうして子育てしたらいいかわからずに虐待に走るケースも往々にしてあります。児童虐待は単に個々の家庭の問題というとらえ方だけでなく、広く地域や社会全体で見守り支援していく体制も必要だと思います。
津田 正治 先生
神戸市医師会理事
津田医院院長