2011年
11月号

みんなの医療社会学 第十一回

カテゴリ:医療関係

地域連携パスで、がん治療の均てん化を

豊田 俊 先生
兵庫県医師会常任理事
豊田胃腸科外科院長

─地域連携パスとはどのようなものですか。

豊田 患者さんがある病気の診断を受けてから、地域内の各医療機関が共有する、患者さんに対する治療開始から終了までの全体的な治療計画のことを、地域連携パスといいます。つまり、病院ですべてを担当するのではなく、地域の医療機関が役割を分担して高い治療効果を目指す地域完結型の治療計画を地域連携パスといいます。地域連携パスの採用が特に進んでいるのは脳卒中とがんです。脳卒中は医療機関の役割分担が比較的明確で、病院でも急性期~回復期の連携は円滑に進んでおり、さらに維持期への連携の動きが計画中です。がんに関しては現在、地域連携パスが推進されていますので、今回はがんの例について詳しくお話しいたします。

─なぜがんに関して地域連携パスが推進されているのでしょう。

豊田 何といっても患者さんからの強い要望です。がんは日本人の死因のトップで、約3割の方はがんで亡くなられています。また、女性の約3人に1人、男性にいたっては約2人に1人が生涯でがんを患うといわれています。
 そのような背景と、患者さんの声もあり、がん対策基本法が平成18年に成立しました。この法律により政府はがん対策推進基本計画を作成し、それに基づいて都道府県はがん対策推進計画を策定することになりました。その主な目的は①がんの予防と早期発見の推進、②がん医療の均てん化の推進、③がん研究の推進等ですが、患者さんは中でも治療の均てん化を要望しています。地域連携パスの最大の目的は、この均てん化の実現にあります。

─「均てん化」とは何ですか。

豊田 患者さんが全国どこにおいても質の高い安全な治療が受けられることをいいます。患者さんは近くで質の高いがん治療を受けられることを望まれています。そのためには専門的な知識や技能を持つ医師の育成と、その希望に応えられる医療機関の整備が必要となります。
 そこでがん診療連携指定病院を、地域住民の入院治療をほぼ完遂できる目安とされる2次医療圏に1つ以上設けることになっています。兵庫県には2次医療圏が10圏域ありますが、県内にはがん診療連携拠点病院として22病院、準拠点病院をあわせて30以上の病院が指定されています。これらの病院において、がんの中でも特に多い5大がん(肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、乳がん)に関する地域連携パスを5年以内(来年の3月まで)に整備することが、がん推進基本計画の目標として定められています。

─がん治療における地域連携パスのメリットは何ですか。

豊田 地域連携パスの活用によってがん治療の均てん化が推進されることと、地域連携パスをやり取りすることを通して、病院と診療所の間の一層の連携強化により、患者さんの視点に立った安心で質の高い医療を提供する体制の構築、環境が醸成されることを目指しています。
 がん拠点病院と、患者さんの日頃の診療にあたっているかかりつけ医が医療情報を共有し、同じ診療計画で治療を行うことができます。また患者さんの病状の変化があった時やがん再発時の対応などについても文章でマニュアル化され、休日夜間の緊急時も迅速な対応についてもしっかりと話し合っています。つまり拠点病院と診療所とに2人の主治医がいて、お互いが患者さんの体や病状について情報を共に十分に把握しているため、何かあった場合でもどちらでも対応可能となり、患者さんが遠くの拠点病院まで行かなくてもいい病状なのか、そうでないのかなどを診療所で十分に診てもらうことができるというイメージです。
 もちろん、患者さんにとっては長い待ち時間や通院時間の短縮などの負担軽減や、ご自身の治療計画や経過を簡単に把握できますし、気楽にかかりつけ医の診療や相談を受けられ、不安の解消といった利点にもつながります。

─地域連携パスは具体的にどのタイミングで使われるのですか。

豊田 がんと診断された時、またはがんの疑いがある時に、患者さんと相談して希望される病院へ紹介することになり、その病院が拠点病院である場合、兵庫県下の統一地域連携パス利用による治療がおこなわれます。この統一パスは主に兵庫県医師会と兵庫県がん診療連携協議会が協議して素案を作成したもので、患者さんの病状や治療内容・方針などに応じてより使いやすく変更・カスタマイズができます。
 拠点病院以外の、がん治療をおこなっている病院でも独自のパスを利用されている場合がありますが、この統一パスも参考にされ、地域連携を進めていただきたいと思います。地域連携パスを利用しない医療機関へは患者さんを入院や退院時しないということは、患者さんの利益になりません。医師会はあくまでも、かかりつけ医などのアドバイスを参考に患者さんが希望する医療機関での治療を優先する、いわゆるフリーアクセスを保障することが最も大切と考えています。また現在、5大がん以外の前立腺などいろいろながんについても地域連携パスが検討されています。

─地域医療パスは医療費削減の問題とも関連がありますか。

豊田 政府は急性期病院に医療スタッフや医療費を集中しています。医師不足が深刻な今、がんをはじめとする疾患別の拠点病院に専門医を集めることは致し方ないことではありますが、一方では地域の一般病院や診療所をはじめとする身近な地域医療の担い手が手薄になるというデメリットもあります。またこの地域連携パスを使い、医療機関の役割分担ということで入院治療からできるだけ早く在宅療養に移すことによって、医療費を抑えようという、政府の医療政策の面があることも否めません。しかし我々医療関係者は、この地域連携パスを、医療の効率化ツールとしてではなく、患者さんや住民の皆さんが望む、安心で質の高い治療に役立つために、病院と診療所はじめ医療・介護などの関係者間の連携を一層強めるために活用し、充実させていくことをめざしております。
 今後このがん地域連携パスの内容などについては、兵庫県がん診療連携協議会と兵庫県医師会等がさらに検討し、関係者への周知を行っていく予定ですが、患者さんの声は言うまでもなく、地域医療の現状やかかりつけ医の要望も反映させながら、よりよい形にしていくように努めていくつもりです。

豊田 俊 先生

兵庫県医師会常任理事
豊田胃腸科外科院長

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