2011年
11月号

桂 吉弥の今も青春 【其の十九】

カテゴリ:文化・芸術・音楽

ぷいぷいのはなし

私が週に一回出演させてもらっている「ちちんぷいぷい」というテレビ番組がある。この番組のメイン司会をつとめていた角(すみ)淳一さんが九月いっぱいで番組から卒業しはった。もうお年は六十六歳で毎日放送アナウンサーとしてはすでに定年退職なんやけど、その後も専属契約という形で続けてなんと計十二年。関西以外の方には誰のことやらさっぱりでしょうが、この辺りでは『角さん』と言えばあの背の低い、こじんまりとした、メガネをかけて優しく微笑むぷいぷいの角さんなのである。
私は小学生の頃から布団の中で小さなラジオを耳に当てて深夜放送を聴くおませな子だった。音楽番組ではない、トーク中心の番組が大好きで、大人たちの会話を聴きたいがために何時間も夜更かししていた。その頃の角さんはラジオの人。最初は放送局のアナウンサーと知らず、笑福亭鶴光というおっさんと毎週毎週トークを繰り広げているおっさんとしか認識していなかった。大阪弁やし、鶴光師匠と平気で下ネタで笑ってるし、テレビには出てこないし、ニュースを読んでる姿なんて見たことも聴いたこともない。ヤングタウン木曜日の番組内ではアナウンサー失格みたいな存在でいらわれてはったけど、私には抜群に面白い存在であった。 
そのうちに、局アナという仕事に就きながらこのスタンスを貫くのは相当凄いことなんじゃないかと思い始める。私も思春期になって自分探しの時期になり、こんな生き方してる角さんをカッコイイと思えるようになってきた。憧れから勝手に自分のペンネームを『角淳二』と名付けてハガキを書きまくったのもその頃、角さんが私のハガキを読んでくれるか鶴光師匠がペンネームに反応してくれるか毎週わくわくして聴いていた、青春やったなあ。
それから角さんはテレビにも出てどんどん人気者になっていく。「夜はクネクネ」という角さんと原田伸郎さんがただただ歩いてしゃべる番組は画期的だったし、今よくある街角ロケ番組はこれの模倣じゃないかと思う。
そんな憧れの角さんと一緒に仕事が出来る、ちちんぷいぷいに出演しませんかと言われた時はほんと嬉しかった。それから三年ほど、週に一回だが放送時間が三時間と長いのでいろんなことを勉強させてもらうことになる。
まずは「俺は贔屓(ひいき)はせえへんから」とがつんと言われた。落語の仕事で地方に行った時の土産物を楽屋で手渡した時も「こんなん貰っても変わらへんで」と一言。基本的に角さんが私にくれる言葉は短い。文章で書くと冷たい感じがするが、前後の周りの雰囲気や私の態度から考えるとこれは効果的な厳しくも優しい一言なのだ。「吉弥が俺を好いてくれるのは分かる、でもそれだけではテレビの仕事はでけへんよ。他の出演者にもスタッフにも視聴者の皆さんにもかわいがってもらわないと」。
私は落語家で高座の時は一人で喋るし、テレビの仕事の前はラジオの仕事が長かったのでどうしてもおしゃべりになる。テレビは映像が流れているし、ましてぷいぷいのように出演者の多いバラエティ番組ではそんなにおしゃべりはいらない。交通整理できていないトークはうるさいだけだ。顔の表情がアップで映っただけで言葉は無くても成立することがあるのだから。最初の頃はそんなことが分からない不器用な私、知ってることは全部しゃべりたい、全てに相づちをうちたいと相当うるさかったと思う。
角さんは今まで私の落語会に来なかった、わざと足を運ばなかったらしい。「僕は落語が好きやから、聴いてしまうと番組内で吉弥に接する態度が変わってしまうような気がして怖いんや」と言うてはった。これも角さんならではの言葉だ。もう引退したし、絶対聴きに行くからなと最終回の時に固く握手をして別れた。お待ちしていますよ!
角さんがいなくなっても、普通の人が普通に見て楽しめる『ちちんぷいぷい』にしていきたいと思う。あ、ちなみに角さんはラジオに帰ってくるらしい、またハガキ書くか。

KATSURA KICHIYA

桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説 「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」 土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」 水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」 月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」 土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞

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