2011年
11月号
芦屋の邸宅文化を今に伝えるヨドコウ迎賓館

連載 憧憬の地、芦屋

カテゴリ:グルメ, 文化・芸術・音楽, 芦屋

文化薫り、品格のある街
芦屋の「らしさ」を大切に

芦屋市婦人会会長
日本ユネスコ協会連盟理事
芦屋美術博物館館長
廣瀨 忠子さん

小さい時から芦屋に住んで、芦屋は日本一の街だと思っています(笑)。大阪と神戸の間にあり、緑の山、青い海に囲まれた文化的な意識を持った方が多く住んでおられる街です。
芦屋は阪神電車が最初に開通しましたので、阪神沿線から別荘地として石垣造りの素敵なお屋敷ができてきたのです。子どもの頃、街そのものもとっても豊かだったと思います。海まで田んぼと蓮根を育てる蓮池ばかりで、蛙が鳴くようなのどかさがありながら、都会的でオシャレな感じもありました。
母・廣瀨勝代は社会活動に尽力した人で、全国婦人会の副会長やユネスコの国内委員、赤十字の理事などをしておりましたほか、兵庫県婦人手工芸協会を立ち上げて婦人の手工芸を盛んにしましたのですが、ちょうど幸いなことに家が神戸から大阪の通り道で国道2号線から少し入ったところですから、いろいろな要人がいらして、ちょっと日本の普通のお家で手工芸品をお見せするのに手頃な場所だったのですね。ですからインディラ・ガンジーさん(インド首相)とか、ヘレン・ケラーさん、マッカーサーの奥さんとか、よくいらしたのはライシャワー夫人。秩父宮妃殿下や高松宮妃殿下、韓国へお嫁に行かれた李王妃殿下もしょっちゅういらしておりました。ここにお寄りになって、母の手製の蕎麦や寿司を召し上がっていただいたりしたのです。
終戦直後、大陸から引き揚げてきた復員兵は船で下関へ上陸し、貨車のような列車に乗り継いで故郷を目指して帰られる途中、芦屋駅で40分止まっていたのです。ちょうどその頃、母が芦屋の婦人会を立ち上げたところで、初仕事にボランティア活動としてその復員軍人にお茶をサービスしようと。物資が不自由な時代でしたので、会員が薪を一本ずつ、お茶の葉も一掴みずつ持ち寄り、線路脇でお茶を沸かし復員軍人の水筒に入れてあげたのです。すると進駐軍が母を呼び出し「反米行為だ」と。しかし母は「日本の母が負けたから勝ったからではなく、国のために一生懸命がんばり、疲れて帰ってきた子どもたちにお茶を振る舞って何が悪い!あなたたちの親は傷ついた子どもたちに知らん顔をするのか?」と言い返し、逆に進駐軍が「こういうグローバルな考えをしている人をこれからのリーダーに」と母を兵庫県連合婦人会会長に推薦したのです(笑)。
芦屋にはパチンコ店がないのも、母たちが子どもたちによい影響を与えないということで反対運動をし、やがてその活動が条例化に結びつき今ではパチンコ屋のない唯一の市です。
芦屋にはお茶やお能などいろんな特技を持つ奥様がたくさんいらっしゃいます。そんな方々の品性をより磨き、芦屋の代表として活躍できるようなグループを作ってほしいと芦屋市から依頼がありまして、山村サロンでユネスコレディスセミナーを開催するようになりました。歌舞伎なら中村藤十郎さんとか、お能なら茂山千之丞さんなど超一流の方々をお招きして、ご馳走をいただきながら学んでいます。メンバーが減ったら止めようと思っているのですが、好評で全然減らなくて(笑)、気がついたらもう25年も続いています。
芦屋は便利も良いし、食べ物もおいしい。昔は明石から打出の浜に漁師が船を着けてたくさん魚を売りに来たものです。
芦屋は若い人はもちろん、老人もオシャレだと思うのですよ。しかし震災後、昔の風情は少し失われてしまい、「芦屋らしさ」が減ってきたような気がします。ですから、私が館長をしております美術博物館館では「芦屋らしさ」を強調して、子どもたちが小さい時から美術館に来るようにと考えているのです。文化というものに芦屋市民が深い関心を示してほしいと思うのです。
私は赤十字の活動もしていますので、災害が起こるとすぐに街頭募金に立つのですが、芦屋の人はたくさん入れてくれます。阪神・淡路大震災の時に助けられた意識があり、学生が千円札を重ねて入れてくれたり、小さな坊やが自分の財布を開けて考えて入れてくれたりするんですよね。人のためにという他人の痛みを思いやる心に「芦屋らしさ」が残っていると思うのです。それを失わないでほしいですね。

芦屋の邸宅文化を今に伝えるヨドコウ迎賓館

ラストエンペラー・溥儀のご学友だったお父さまに贈られた象牙細工

インディラ・ガンジー・元インド首相から贈られた象の木彫

廣瀨 忠子(ひろせ ただこ)

春日町在住。昭和20年の芦屋市婦人会創立当初から役員と副会長を歴任、昭和55年から会長として活躍。日本ユネスコ協会連盟理事、芦屋ユネスコ協会会長、芦屋市赤十字奉仕団委員長、芦屋学園同窓会(翠巒会)会長、芦屋市立美術博物館館長など数々の要職を務める。


文豪・谷崎潤一郎も認めた和菓子の傑作

杵屋豊光 謹製 細雪物語

創業約80年の杵屋豊光は谷崎ゆかりの和菓子店。彼が足繁く通っていた弁護士宅は杵屋の御用達であり、自身も立ち寄って手みやげを買うなど、杵屋の味は彼の口に合っていたようだ。
そんな縁があり、谷崎に名作『細雪』の名を戴いたお菓子を作らせてほしいと先代が願い出たところ、「旨いものを頼むよ」と優しい激励を受けて創作されたのが銘菓、細雪物語である。
餡を求肥で包み、焦がし丸なる丸いムサシ生地(最中の皮)で挟むスタイル。餡は北海道産の十勝小豆を銅鍋で直火炊きし、皮の部分を取り除いた手絞りのこしあん。つややかで雑味なく、上品な自家製の餡だ。求肥はやわらかく、その表面はまさに細雪のように輝いている。香ばしいムサシ生地の焦げ目が醸す絶妙な苦味が餡の甘みを引き立てる奥深い味わいは、『細雪』の物語のようにドラマチックだ。
出来の良さに谷崎も合格点を与え、松子夫人も贔屓にした和菓子の傑作は、舌の肥えた芦屋の人たちに今なお愛されている。

舞台『細雪』の公演があると劇場の売店に並ぶこともあるが、基本的にはここでしか買えない

御菓子司 杵屋豊光

芦屋市西山町9-2
TEL.0797-22-3138
営業時間 9:00~18:00 月休
阪急神戸線芦屋川駅下車、すぐ


モダニズムの鼓動を今に

重信医院

三宮からわずか10分。清らかな水せせらぐ芦屋川をホームがまたぐ阪急芦屋川駅は、都市を結ぶ大動脈にあるとは思えない閑静な駅だ。
駅を降りて山側、東西に走る道は、今でこそサンモール芦屋川商店街として地元の人たちで賑わっているが、かつては水道路とよばれ、その名の通り阪神間をはしる水道管の上に作られた道であった。
その道沿い、芦屋川の駅からすぐのところに、山小屋を思わせる洋館の医院がある。この重信医院こそ、『細雪』に登場する櫛田医院のモデルだ。
スクラッチタイルの塀は時とともに風合いを増し、時代を超え道行く人々を見守っている。とんがり屋根の建物は、阪神間モダニズムで流行した山荘風。柱と壁の色のコントラストはヨーロッパの民家を思わせる。吹きガラスのランプシェード、エントランスのステンドグラスなど細やかな装飾は、『細雪』で谷崎が描いたこの地の豊饒な文化土壌を今に語り継いでいる。

重信医院

芦屋市西山町11-3
TEL.0797-31-2480
阪急神戸線芦屋川駅下車、すぐ


巨人軍の栄光を支えた竹園の料理の秘密がここに

『巨人ナインが愛した味』

竹園旅館(現ホテル竹園芦屋)元料理長 梅田茂雄著
プレジデント社 1,429円+税

たまたま街頭のテレビで観た長嶋茂雄選手に憧れて野球をはじめ、鎌倉学園時代、後に阪神で活躍する竹之内雅史氏とともに甲子園の土を踏んだ時の宿舎だった竹園で、宿の娘だった多美子さんと出会い、やがて結ばれ竹園の厨房に。根っからの巨人ファンゆえ、常宿にしている巨人の選手の料理を手がけることはまさ幸福。料理の腕を磨き、選手のことを考えた料理で、いつしか「梅ちゃん」と選手から慕われるように…。
V9戦士をはじめ、巨人のスターたちのエピソードも面白い。長嶋さんは「梅ちゃん餃子」がお気に入り、王さんは神戸肉のステーキを2枚ペロリ、ローストビーフサラダはワイン好きの桑田氏のために考えたとか。
この本のミソは、これらのメニューのレシピを詳細に紹介している点。食通の野球選手を唸らせた味のみならず、球団の栄養士もお墨付きの栄養バランスをご家庭の食卓でお試しあれ。
巨人ファンはもちろん、野球好き、料理好きも必読の一冊。

「食卓は怒濤の猛打戦に…」など、野球にちなんだ表現も本のスパイスに

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  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2011年11月号〉
フロントアート
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