11月号
[海船港(ウミ フネ ミナト)] バーゼルから乗船してライン河クルーズの緒に②
文・写真 上川庄二郎
【どうしてリバー(ライン河)・クルーズなの?】
今日までクルーズといえば、大型船による外洋クルーズが主流を占めてきたが、このところリバー・クルーズが人気を呼んでいる。何故か。そのあたりを少し整理してみよう。
まずは、河であるから外海を航海するような時化とか荒天による船揺れがない。したがって、日本人が最も苦手とする船酔いはまったく心配することがない。
次に、河川は、かつては内陸都市への人や物資の輸送路だった。それがライン河を機軸にヨーロッパ全土を網の目のように張り巡らしている。その両岸には歴史、文化の薫り高い古都やのどかな田園地帯が拡がり見所が多い。まさに、動くパノラマといってよい。その上、動くホテルなので下船して観光するにも便利でかつ楽である。
しかも、陸路や空路の発達した今日、かつて港町として栄えた小都市はこれらのルートから外れ、比較的ゆったりとした時間の過ごせる穴場的存在のところが多い。日本でも、瀬戸内海の島々や沿岸の港町を見れば、このことがよく理解できるはず。そう、瀬戸内海は海ではなく限りなく河に近い。つまり、灘が湖、瀬戸が川であると見てみればよく分かるはず。
また、リバー・クルーズ船は小振りなため、アット・ホームな持て成し、わが家のリビングにいる気分で過ごせるのが、特に日本人受けする。
最近は、外洋大型クルーズ船の乗客たちも、こういったことに気付きはじめ、リバー・クルーズにシフトするようになってきた。
このように、リバー・クルーズ人気が向上していることから、日本の旅行会社も自社船を持ってライン河流域のリバー・クルーズに進出していることは前号でも紹介したところ。
最近では、中国の長江にもヨーロッパのリバー・クルーズ船が投入され、長江クルーズに大変革をもたらしている。
【バーゼルの河畔から出航】
さて、今回のクルーズで私たちは、スイスのバーゼルからオランダのアーネムまでの凡そ680㎞余りとライン河の支川・モーゼル河150㎞、併せて830㎞を10日間かけてゆっくりと沿岸ののどかな田園地帯やローレライに代表される古城渓谷、モーゼル河のぶどう畑の移り行く眺めを楽しむことになっている。
しかし、ライン河クルーズを楽しむためには、その源流であるスイスアルプスを訪ねておきたい。神戸港から瀬戸内海クルーズに出掛ける前に、京都、奈良を訪ねるような考えと相通ずるものがある。そんなことで、登山電車に揺られて、ユンクフラウヨッホに行き、源流である氷河を目の当たりにしてきた。しかし、地球温暖化の影響でアルプスの氷河も後退が著しいと聞かされると驚いてしまう。しかし、北極も南極もグリーンランドもヒマヤラも同じ現象だと知ればむべなるかなである。地球温暖化が待ったなしのところにまで追い込まれていることが良く理解できる。
ともあれ、バーゼルに着いて船に乗る。バーゼルといえば、スイス2番目の都市であるばかりか、ドイツ、フランス、スイスの三国の国境の都市であることでも知られている。
バーゼルの標高は250mもあるのだから、ライン河の河口までには20か所を越える閘門があるという。そうすると、ヨーロッパ中では一体どのくらいの閘門があるのだろう。そこを1500t~2000tクラスの河船が航行できるというまことに壮大な交通路である。そう考えただけでも、この大陸の水路を開発した先人たちの叡智と労苦が偲ばれる。
バーゼルを夜半に出航した船は、翌朝早くブライザッハの河畔に接岸した。下船したらすぐそこがダウンタウン。乗降の便利さが、リバー・クルーズ船最大の魅力である。
かみかわ しょうじろう
1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。