1月号
神戸の多様性はまちの資産 芸術・文化の振興につなげていく
神戸市長 久元 喜造 さん
震災復興から次の段階へと歩み始めている神戸。市民が芸術や文化を身近に感じることができるまちづくりは、どこまで進んでいるのでしょうか。久元喜造市長にお伺いしました。
神戸の多様性はまちの資産
―2020年、震災から25年を迎えますね。
神戸が国内外からの多くの支援を頂きながら蘇ったということを記憶に留めたいと思います。歳月が過ぎることは止められません。しかし、人間は過去の記憶や教訓、その時々の思いを次の世代に伝えていくことはできます。
―まちの復興に芸術・文化を大切にしてきましたね。
芸術・文化は都市にとって非常に重要な要素です。都市行政は、単に便利にする、産業を盛んにするためでは不十分です。特に神戸のような大都市には、いろいろな人たちが集まり、議論をして、創造的な活動につなげていくことが理想です。そのためには日常的空間だけでなく、非日常的空間が必要です。それは祝祭性を創り出すこと。不可欠なものが芸術・文化、これらが盛んなまちには才能がある人たち、クリエイティブな人たちが集まってきます。これは歴史が証明しています。
―神戸文化ホールが三宮へ移転、リニューアルしますね。
決して行政だけで取り組むことではありませんがインフラを造ることは必要です。神戸文化ホールは老朽化が進んでいますので、三宮の3カ所に移転という大きな計画を立てています。しかし、三宮に集めようとしているわけではなく、例えば昨年の「アート・プロジェクト KOBE2019:TRANS-」は市街地の少し西側、神戸の歴史発祥の地といえる兵庫区と長田区南部界隈で実施し盛り上がりました。北区や西区の里山文化も貴重なものですから、今後は焦点を当てていきたいと考えています。神戸の多様性をまちの資産の一つと捉え、芸術・文化の振興につなげていくという発想が求められています。
大切なのは知識ではない
伝わるものを感じ取ること
―神戸市立博物館のリニューアルで大きく変わったことは。
1階には神戸の歴史を知るコーナーを新設し無料開放しました。主な収蔵品としては聖フランシスコ・ザビエル像、桜ケ丘の銅鐸・銅戈などがあり、これらが見やすいコレクション展示室を2階に新設しました。収蔵品を集めた名品展をオープン記念として催し、多くの方々に来ていただきました。大きな特徴としては、2階展示室入館料、特別展・企画展も含めて高校生以下は無料、大学生は半額としたことです。若い世代の皆さんに、ぜひ見ていただきたいですね。
―若いときから芸術や文化に触れることの意味は。
一枚の絵画がどういう名称で、何派に属し、どういう背景で描かれたかなどという知識はそれほど大事なことではないと、私は思っています。頭で理解して知識として身に付けるのではなく、大切なのは伝わってくるものを自分なりの感じ方で受け止めること、感性を育むことです。成長するにつれて、一枚の絵画の印象は変わっていき、触れ合い方は進化していくはず。これは芸術や文化全般にいえることではないでしょうか。
―今後、神戸では環境が整ってきますね。
文化ホールをはじめ、ハードは整備されますが、まだまだ不十分だと考えています。さまざまな公演を開催し、市民の皆さんが芸術に触れる機会を増やしていく取り組みが今後は大切。それには、民間の皆さんと一緒に進めていく姿勢、海外へも発信していく努力が必要です。
―神戸国際フルートコンクールは海外からも評価が高いですね。
このコンクールの優勝者・受賞者が海外でも幅広く活躍し、高い評価を頂き嬉しく思っています。神戸市が主催していた当時はあまり知られていない状況でしたが、いろいろな工夫を凝らし民間の力で進めていただいたお陰で市民にも浸透し、今後はご理解を得られるのではないかと考えています。
神戸の市民や企業の力が
芸術・文化振興を牽引
―神戸文化マザーポートクラブの活動やストリートピアノなど、民間の力を感じます。
市民の皆さん、中でも神戸の企業からは物心両面でご協力いただいています。ストリートピアノは私自身が雑談でお話ししたところ、UCCの上島会長、オリバーソースの道満社長、ロックフィールドの岩田会長、田嶋の伊藤社長、シスメックスの家次会長をはじめ多くの方が呼びかけてくださったこともあり、現段階で市内13カ所に設置されています。上手なミュージシャン、何十年ぶりにピアノを再開するきっかけになった人、子どものかわいい演奏とそれを聴く人、他の楽器との即興アンサンブルをする人たちなどなど、ピアノを介して新たなコミュニケーションが生まれています。この試みは全国の地方自治体の中でも他には例を見ないでしょうね。まだ実験段階ですが、皆さんに喜んでいただけるようなら将来的には30台設置も夢ではないと思っています。
―六甲ミーツアートも10回目を迎え大盛況ですね。
私も期間中に出かけましたが、参加アーティストのすごい意欲を感じます。六甲山観光と阪神電鉄が主体となって開催しているイベントですが、昨年は市長賞をお贈りしたり、文化活動功労賞を贈呈したり、さらに発展させていただきたいという思いをお伝えしました。
子どものスマホづけは不幸なこと。子ども図書館に期待
―安藤忠雄先生が「子どもたちがスマホを見る時間を半分にしたい。そのために読書が必要」とお話しされていました。
全く同感です。そして私財をなげうって、子どものための図書館をつくっていただくことになり、非常にありがたいことだと思っています。
―期待は大きいですね。
スマホづけは子どもたちにとって不幸なことです。子どもたちが読書に親しむための大きなきっかけとなるのはもちろん、三宮からウォーターフロントへの人の流れと賑わいづくりにも役立つ施設になると期待しています。安藤先生からは、東遊園地の慰霊と復興のモニュメントの近くにつくりたいと希望を頂きました。震災の記憶を子どもたちにも伝えたいという思いもお持ちなのでしょうね。
―最後に、2020年の抱負をお聞かせください。
震災があったがためにできなかったこと、取り組めなかった課題をスピーディーにやり遂げる時がきています。市民の皆さんからのお力添えを頂きながら、神戸を見違えるほど素晴らしいまちに創り上げていきます。
―今年もよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。