2020年
1月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一○三回

カテゴリ:医療関係

地域医療、医師の健康、病院のすべてを守るために

令和初の新年を迎え2020年代の幕が開いたが、一方で医療の現場では難問が山積している。今回は主に地域医療構想や医師の過重労働の問題について、兵庫県医師会の空地会長にお話を伺った。

いよいよ迫る2025年

─団塊の世代が75歳を迎える2025年まであと5年になりました。
空地 日本はすでに超高齢社会を迎え、ここ2年はやや高齢化率が下がるものの、その後急激に高齢化率の上昇が見込まれています。働き手が減っていく中で社会保障の受け手が増え、病気や障害を持つ方や介護を要する方も増え、さらに亡くなる方も増えて多死社会になる。そして人口が減っていく。そういう状況に突き進んでいるのです。2025年はひとつの区切りですが、最近では65歳以上の高齢者人口がピークになる2040年問題もクローズアップされています。

─それでもまずは2025年に向けて地域の医療提供体制を構築していく地域医療構想が重要ですよね。
空地 今の日本の医療供給体制はどちらかというと若い人が増え人口が増加するような局面に応じた体制で、超高齢社会、多死社会、少子社会という状況と合っていません。高齢者が増えると病気の質も変わっていきますので、医療も変わっていかないといけない。ですから今の医療供給体制を再編成していこうというのが地域医療構想です。地域のこれからの人口構成の変化、疾病構造の変化を推察し、病床をどうするか検討しています。

─病床機能の再編での課題はありますか。
空地 高度急性期と慢性期の分類はわかりやすいですが、急性期と回復期の仕分けが難しいのです。急性期でもリハビリなど回復期の医療を受けている患者さんもいますし、回復期でも誤嚥性肺炎を発症した場合などは急性期の医療が必要です。また、急性期と回復期の仕分けは調整中ですが、現状でも柔軟に医療を提供しうまく回っているとも考えられます。さらに、現在病気になっている方を治療しながら病床の機能を変えていかないといけません。急激に現状を変更するのは県民のみなさまにマイナスなので、ある程度時間をかけて計画的に再編するべきだと思います。

進む二次医療圏の再編

─構想区域の単位となる二次医療圏が再編されました。
空地 兵庫県の二次医療圏は昨年4月に再編され、中播磨と西播磨を播磨姫路に、阪神北と阪神南を阪神に統合しました。二次医療圏は圏域内で医療が完結することがある意味基本で、西播磨や阪神北では患者が他の圏域に流出するという問題がありましたが、今回の統合により圏域内で医療が完結するという意味ではそうなったものの、医師偏在などの根本的な解決には至っていません。一方で、統合により医師数や病床数の偏在が今以上に進む本末転倒な結果にならないように、統合した2つの医療圏内に準圏域が設定されました。継続的に地域医療構想の調整会議がおこなわれていますが、そこでの議論で病床機能や病床数が決まっていくことになるでしょう。

─兵庫県は多様性があるので、区域内での調整も大変でしょうね。
空地 兵庫県は8の二次医療圏域、2つの準医療圏域でそれぞれ地域完結型医療の体制の構築を目指しますが、比較的スムーズに進みそうなところと、さまざまな問題が予想されるところがあります。例えば淡路や丹波では民間の病院がそう多くなく、県立病院が核となって民間の医療機関と連携していますのでスムーズに進むと思います。しかし、医師確保の課題が残ります。かたや医療圏がいくつかの行政区にまたがりステークスホルダーが多い阪神や北播磨では単純ではないかもしれません。医療的な観点をもとにして全体としてのまとまりで医療圏となるシステムづくりに期待しています。

─公立病院については先日、診療実績が乏しいなどと厚生労働省が実名を公表しましたが。
空地 地域医療構想が進まないということで、厚生労働省が公立・公的病院の改革ガイドラインを見直しなさいと、全国の公立・公的病院の約30%にあたる424病院の実名を公表、兵庫県も15病院がリストアップされたのです。それをマスコミがあたかも「統合が必要な病院である」や「適切な医療提供ができていない」などとセンセーショナルに報道し、しかも一部は医療機関や医師会の意見や見解については触れていないという不公平な対応だったのです。そもそもこの実名公表は実態を反映していません。2年も前のデータに基づいていて、すでに合併していたり統合が決まっていたり、連携や病床の再配分がしっかりできている病院もリストに載っていたんです。また、県立リハビリテーション中央病院や兵庫中央病院のように機能が特化している専門病院も病床転換が進んでいない病院として挙げられているのもおかしな話です。その他の病院も地域医療を支えてくれている病院で、今回のいい加減な発表や報道により、患者さんにマイナスのイメージを植え付けたり、医療従事者に不安を与えたりする事態になっています。医療は信頼関係で成り立っていますので、このようなことは決してあってはならないことです。

医師と地域医療を守るため

─医師の過重労働が問題になっていますが。
空地 やはり医師不足に問題の根本があると思います。もう一つ、患者さんも医療機関にかかる回数が世界一多いこともあります。健康への意識が高くなってきて、どうしても専門の医師にかかりたいというニーズも増えていますし。

─病院勤務の医師の残業の多さには驚きます。
空地 特に救急や外科系の先生の残業時間がかなり多いのですが、働き方改革の一環で2024年4月までに年間の残業時間を一般の医師は960時間、救急など地域医療を担う医師や集中的に技能を身につける段階の研修医など特定の医師は1860時間と法律により規定されます。しかし、治療中に「1860時間過ぎますから帰ります」という訳にはいけませんよね。場合によっては地域の医療を守るために法律を犯し、罰則まで加えられる可能性があるのが現実です。もちろん医師の健康を守ることも重要で、連続勤務は28時間までなど長時間労働の防止、長時間勤務の後次の勤務まで時間をあけるインターバルの確保といった対策は不可欠ですが、それを満たしていくと三次救急の病院が現状の医師数ではやっていけなくなる可能性があります。ですから医師をもっともっと増やさないといけないけれど、そうなれば経費がかかり、ただでさえ診療報酬のマイナス傾向で苦しくなっている病院経営に重くのしかかかります。この現状を国がしっかり考えてくれないと、地域医療、医師の健康、病院のすべてを守ることができないのです。

─在宅医療が増えると、かかりつけ医の負担も増えるのではないでしょうか。
空地 在宅医療も深夜や早朝を含め24時間患者さんに対応するとなれば大変ですが、病診連携による病院のバックアップ、訪問看護ステーションの活用などによりサポートが可能ですし、地域の医師会によっては複数主治医を推奨しているところもあります。今後システムを整備し連携を強化していくことが課題です。

─一部の医療行為を看護師へ任せるというのも一つの解決方法だと思うのですが。
空地 医師の判断・指導の下で看護師が一定の医療行為をおこなう特定看護師制度がありますが、なかなか増えていかないですね。エビデンスを積み重ねながらタスクシフトをしていくことも今後必要になるでしょう。

─医師は事務作業も大変ですね。
空地 その通りで、医師は事務的業務で時間を取られることが多く、特定看護師のサポートよりも事務的なサポートをおこなうクラークの方が医師の業務削減に貢献するでしょう。もちろん、医師による書類のチェックは不可欠ですが、書類作成の時間が削減されれば大きな負担軽減になります。

─AIも医師の業務削減に繋がりませんか。
空地 使い方によってはコンピュータやIoTのようにツールとして活用できるかもしれません。診断や治療などの選択肢をリストアップする、画像診断や病理診断で異状検知に役立てるなど可能性はあります。しかし、信頼性や責任性の問題もあるので、最終判断は医師でないと難しいでしょう。

女性医師が輝ける環境に

─医師不足の中、地方の医師確保は大きな課題ですね。
空地 医師は家族の事情などで都会を志向しがちで、地域で頑張っている開業医も1年ずつ年を取りますし、そのご子息やご息女が医師になってもなかなか地域に戻ってきてくれないのが現状です。そこで、兵庫県医師会ではドクターバンクを開設し、スタッフも補強してマッチングは増加傾向です。しかも最近では、釣りができるところに行きたい、スキーができるところで働きたいなど、第一線を退いた先生が地方へ移住して週数日勤務しながら趣味を楽しみたいという希望も出てきています。また、これまでは親族や知人などへの承継を希望する医療機関が多かったのですが、昨今では第三者でも構わないというケースも増えているので、コンサルタントや金融機関などと連携しながらそのような縁を取り持てるような形を検討していきます。でもまだまだ、医師や医療機能が不足している地域に行っていただける先生は少ないですね。

─女性医師の活躍も医師不足解決の一助になりそうですが。
空地 医師会では育児しながら働けるようにベビーシッター補助のほか、県の委託事業として出産や育児などで休職していた女性医師の現場復帰のサポートにも取り組み、ドクターバンクでの勤務先斡旋のほか、最新の医療知識や技術の指導をおこなう研修制度を設けています。また、受け入れる病院でのさまざまな取り組みを評価し表彰する「イクボス大賞」などにより、より女性が働きやすい環境づくりを促しています。

─今後も女性医師は増えていきそうですしね。
空地 日本は医学生の定員枠を増やしましたが、それでも先進国の中では人口10万人あたりの医学生の数は最下位に近いのです。そして女性医師の割合も日本は約30%で、ほかの国が40~50%なのに比べて少ないのですよ。でも今後、女性医師の割合は増え、やがて40~50%くらいになるのではないでしょうか。一方で女性は外科系の診療科や地方での勤務を敬遠しがちで、それが医師偏在に繋がっているのではないかというデータもあると聞きます。ですから女性医師がどんな診療科でも、医師不足地域でも勤務していただけるような環境づくりが大事になってきます。それは、男性医師にとっても勤務環境が改善することを意味します。女性医師は貴重な戦力ですし、大変優秀ですので、今後もキャリアアップしやすい環境を整えていきたいですね。

働きたい医師と、医師が必要な医療機関とをマッチングさせる「ドクターバンク」

「兵庫県医師会イクボス大賞」を設け、女性が働きやすい環境の向上に努めている

一般社団法人兵庫県医師会会長 空地 顕一 先生

1956年、兵庫県姫路市生まれ。1984年、京都大学医学部卒業。1997年、姫路市で祖父、父と続く空地内科院を継承。2012年、姫路市医師会長に就任。2016年、兵庫県医師会長に就任。専門はリウマチ・膠原病。医学博士。日本内科学会総合内科専門医。日本リウマチ学会認定専門医。日本プライマリ・ケア連合学会認定医

〈2020年1月号〉
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700号 記念寄稿|神戸の光と影  〜わたしの神戸の物語から〜 作家 玉岡 かお…
700号 記念寄稿|第二の神戸時代が たった今始まっている 美術家 横尾 忠則
身体は嘘をつかないが、 脳はいくらでもウソをつく|横尾忠則
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