7月号
夏休み 人と自然の共生をまなぶ
兵庫県内あちこちで「人と自然の博物館(ひとはく)」の研究員やボランティアの皆さんが、地元の人たちと連携して活動しています。三田市にある「ひとはく」の館長を訪ねました。
―「人と自然の博物館」を、館長からご紹介ください。
岩槻 兵庫県の自然史や環境計画に関する生涯学習支援とシンクタンクの役目を果たしているのが、「兵庫県立人と自然の博物館(ひとはく)」です。生命科学の研究機関としては県下には兵庫県立大学、神戸大学、理化学研究所神戸研究所などがあり、国際的にも顕著な業績を上げています。
研究を基盤に、県民のまなびとのつながりを大切にする機関がひとはくです。博物館としての本来の役目を果たしている日本では珍しい存在だと自負しています。少なくとも、県下で自然に興味を持っておられる方や、ほかの自然科学系博物館からはトップランナーとして認めていただいています。しかし、残念ながらそれ以外の方には知名度が低いのは事実です。
―今年で開館20周年を迎えるそうですね。
岩槻 平成4年4月、姫路工業大学(現・兵庫県立大学)自然・環境科学研究所とひとはくが設立、10月に博物館がホロンピアの跡地に開館しました。以来20年、さまざまな活動に取り組んできたひとはくを広く知っていただけるように、イベントを開催したり、本を作ったりしようと考えています。ひとはくには、皆さんの役に立ててもらえることがたくさんあるはずですから。
―博物館のトップランナーにまでなった要因は?
岩槻 私は平成15年、館長に就任しました。その前年から開始した新展開にまず注目してください。組織としては研究部、総務課、生涯学習課、情報管理課という構成ですが、それとは別に事業部を置きそれぞれがどこかに所属し、研究員と事務系職員がいっしょに仕事をしています。机を並べていると、それぞれの活動の内容や苦労が良く分かりますから、お互いが理解し、助け合いながら博物館活動に協力して取り組みます。職員間の風通しが良くなると、館員の恊働が整い、館外の連携仲間や、さらに一般市民との恊働にも弾みがつき、効果が見え、事業がうまく進みます。
―新展開とはどういうことですか。
岩槻 開館後10年という転機を迎えるころ、さまざまな状況の影響も受けて、ひとはくも厳しい現実に直面しました。普通なら守りの態勢に入るところですが、ひとはくは自ら新展開に打って出たのです。生涯学習支援とシンクタンク機能の発揮という2本柱を活動の基軸に据え、「共生博物館」を標榜し、こちらから県内全域へ出ていき、恊働の輪を広げるという姿勢に転換しました。
―生涯学習支援とは?
岩槻 人々を学びの気持ちに誘い、学びに目覚めた人々に何かが足りない時にはお手伝いするという仕事に徹しようということです。ひとはく研究員はもちろん、当初のボランティア講座修了生が設立したNPO法人 人と自然の会を始め、現在23の連携活動グループの皆さんにも協力いただいています。申し込み不要で参加できるオープンセミナー、団体向けやリクエストに対応する特注セミナー、そして、ひとはくが誇る専門的な学習ができる一般セミナーは地球科学、植物、昆虫、動物、環境など領域は多岐にわたり、年間約250回以上開催しています。幅広い年齢層に向け展開している生涯学習支援については、毎年発行している「ひとはく手帖」で詳しく紹介していますので、是非一度ご覧ください。
―「キッズキャラバン」もその一つですか。
岩槻 生涯学習支援の対象は成人やシルバーに限らず、「ゆりかごから墓場まで」ではなくて、生物学的に言えば、「受精卵から幽霊まで」です(笑)。そこで、子ども対象も強化しようと、昨年から始めました。多くの職員が意欲的に取り組んだお陰で、たいへん好調です。昨年は、東日本大震災で被災した子どもたちに少しでも元気になってもらおうと、仙台の2つの児童館、八戸の児童科学館と久慈の水族館へ出かけました。子どもたちには「また来てね!」と喜んでもらい、職員たちも充実した時間を過ごすことができたようです。その後、東北の他の各地にも活動の輪を広げています。
―震災復興支援はほかにも?
岩槻 研究グループが災害で起こったことについて検証し、それにどう対処すれば良いのかの研究を進めています。今年度からは、自然が受けた影響と保全のために今後必要なことは何かの研究も始めます。
―さて、楽しそうな博物館・ひとはくですが、今後さらに目指すところは?
岩槻 多岐にわたるセミナー開催やキャラバン実施、広報活動など、ひとはくは今や実力以上の力を発揮しているのではないかと思えるほど。個々の職員が専門以外でも、必要とあれば対応しましょうという姿勢で取り組んでいるからです。そして、ひとはくだけが走っていてもダメですから、全国的にひとはくを知っていただいて、良いところはどんどん真似してもらって、更に良いものができればそれをまた真似して…、日本全体の博物館のレベルアップにつながれば素晴らしいと思っています。
―これから夏休みにかけてファミリーで参加できる催しも楽しみですね。ありがとうございました。
岩槻 邦男さん
兵庫県立人と自然の博物館
館長 東大名誉教授
丹波市(旧氷上郡柏原町)に生まれ、奥丹波の自然の中で幼少時代を過ごす。京都大学大学院修了、理学博士。京都大学教授、東京大学教授などを務めた。現在、兵庫県立人と自然の博物館館長、東京大学名誉教授。専門分野は植物学。主としてシダ植物を対象に、東・東南アジアをフィールドに研究を行っており、保全生物学にも貢献し、生涯学習支援にも強い関心をもっている。日本学士院エジンバラ公賞受賞(1994)、文化功労者顕彰(2007)。
兵庫県立人と自然の博物館 夏休みのイベント
昆虫標本づくり実演コーナー2012
8/4~8/27の間の土・日・月(8/26は除く)
13:00~15:00
昆虫博士が、標本をつくりながら解説します。
※参加者が標本づくりを体験するセミナーではありません。
●対象者:どなたでも参加可●参加費用:無料●当日に参加の申し込みをしてください
うきうきワークショップとっても簡単!化石のレプリカづくり
7/14(土)・8/12(日)~8/15(水)10:30~16:00
カラフルな化石のレプリカをつくります。
●対象者:どなたでも参加可●参加費用:100円●当日に参加の申し込みをしてください
ドリームスタジオ~勾玉つくり
8月19日(日) 13:00~15:00
五感をフルに使って体験する、とっておきのプログラムを用意しています。8月は勾玉をつくります。
●対象者:どなたでも参加可●参加費用:有料(材料費程度)●当日に参加の申し込みをしてください
丹波の恐竜化石発掘セミナー
7/29(日)8/5(日)8/12(日)8/19(日)
10:30~11:30 14:00~15:00
発掘セミナーでは、石を細かく割って新たな化石を探し出します。
※発見された化石は持ち帰ることができません。
●対象者:小学校3年生以上●参加費用:500円●当日に各回15分前より整理券配布
■開館時間 10時~17時(入館は16:30まで)
■休館日 月曜日(祝日の場合はその翌日)
■観覧料 大人 200円 大学生 150円
高校生100円 中学生以下 無料
■住 所 兵庫県三田市弥生が丘6丁目
■電 話 Tel.079-559-2001