9月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 72
狭心症は心筋梗塞の一歩手前
気になる症状があったらすぐに診察を
―狭心症について教えて下さい。
白 心臓は1日に約10万回も収縮・拡張を繰り返していますが、それをおこなう心臓の筋肉(心筋)に栄養を送り込む血管を冠動脈といいます。この冠動脈の血液の流れが悪くなった状態を狭心症といいます。冠動脈の血液が不足すると心筋が酸素不足に陥り、そのために胸の痛みが生じます。冠動脈が詰まってその血流で養われていた部分の心筋組織が壊れて死んでしまう状態が心筋梗塞です。狭心症は心筋梗塞の手前と位置づけることもできるでしょう。冠動脈が詰まる原因は、動脈硬化や血栓などです。症状ですが、狭心症はふつう労作性狭心症といい、動いている時、例えば急ぎ足で歩いたとき、階段や坂道をのぼったとき、ひどく興奮したときなどに胸の中央部が締め付けられる、あるいは何かを押しつけられるような圧迫感を感じますが、しばらく休むと治まってくるのが特徴です。痛みでなく息切れとして自覚されることもあります。痛みを感じる場所があまりはっきりしないことが多く、症状の持続時間は数十秒から数分です。15分以上激しい痛みが続く場合は心筋梗塞が考えられるので、すぐに救急車をよびましょう。安静時にも冠動脈がけいれんして同様の症状が出る場合がありますが、これは安静時狭心症といいます。
─どのような人が狭心症になりやすいですか。
白 労作性狭心症の主原因である動脈硬化の危険因子として、脂質異常症、高血圧、糖尿病などが挙げられ、男性に多くみられます。また、喫煙、肥満、運動不足、女性の閉経後なども因子になります。安静時狭心症は若い人に増えています。
─診断と治療については。
白 心電図などで診断します。心電図は一般的な心電図測定のほか、運動負荷をかけた状態での測定、ホルター心電図による24時間の測定などをおこなうこともあります。狭心症の疑いが強い場合は、冠動脈造影でくわしく調べます。冠動脈造影とは、足の付け根、腕のひじの裏などの動脈からカテーテル(合成樹脂でできた特殊な細い管)を挿入して、冠動脈 (心臓に酸素や栄養素を供給する血管) を造影する検査です。冠動脈のどの部分が、どの程度詰まっているかを確認できます。治療としては状況により投薬、PCI(経皮的冠動脈形成術)などのカテーテル・インターべンション、バイパス手術などがおこなわれます。投薬では血管の緊張を緩める薬、心臓の負担を減らす薬、血液を固まりにくくする薬などを使用します。PCIとはカテーテルを使用し血管が狭くなっている部分を風船(バルーン)やステント(網目状の金属製の筒)などを使って広げる方法です。冠動脈バイパス術は外科的な治療で、狭くなったり詰まったりしている冠動脈の先に、内胸動脈、胃大網動脈などをつなげて血管の迂回路をつくる手術です。
─PCI地域連携とは。
白 患者のみなさまに安心して治療を受けていただけるように、かかりつけ医とPCI治療をおこなった病院との情報共有や連絡を円滑におこなうためのネットワークで、神戸市医師会が主導し、神戸大学付属病院、中央市民病院、社会保険神戸中央病院などの神戸市内の病院と診療所とで協議会を結成しました。PCI治療をおこなった患者さんに、治療歴や検査結果のデータなどを記載した「PCI地域連携手帳」お渡ししています。この手帳を持参すれば、かかりつけ医もスムーズに診察ができ、緊急時にもたいへん役に立ちます。また、発作時の対応やセルフチェックの方法、日常生活上の注意点なども載っていますので、生活や療養にも役立ちます。患者さんにとって専門病院とかかりつけ医の2人の主治医を持つことになります。PCI地域連携のネットワークはPCI治療をおこなう病院の紹介、逆にかかりつけ医のいない患者さんへの逆紹介にも活用され、地域全体での医療の質の向上にも寄与するものです。
─狭心症にならないためには。
白 前述のとおり、狭心症を引き起こす動脈硬化は、脂質異常症、高血圧、糖尿病も危険因子になっています。ですので、何よりもメタボリックシンドロームの解消に努めるように、普段から食べ過ぎや脂質の摂りすぎに注意し、お酒は控え、禁煙しましょう。過度のストレスを避け、適度な睡眠と運動を心がけることも大切です。また、かかりつけ医を持って日常的に健康を管理し、何か症状があればすぐに診察を受けられるようにしましょう。
白 鴻泰 先生
神戸市医師会理事
海岸診療所院長