2013年
9月号

みんなの医療社会学 第三十三回

カテゴリ:医療関係

関西イノベーション国際戦略特区と
神戸における特区の展開

─関西イノベーション国際戦略総合特区とは何ですか。
近藤 関西イノベーション国際戦略総合特区は京都・大阪・兵庫の6自治体が共同申請し、神戸クラスターをはじめとする9つの地域で展開しています。関西には世界的なリーディング企業や研究機関が集積し、スーパーコンピュータ「京」やスプリング8など科学技術基盤がしっかりしていますので、それらを活用してライフ分野とグリーン分野の6つのターゲットを重点的に取り組んでいます。ライフ分野では医療機器、医薬品、先端医療技術、先制医療のプロジェクトが展開しています。臨床研究や治験についてはPMDA-WEST(医薬品医療機器総合機構関西支部)を設置して産業化のスピードアップをはかり、関空や阪神港を活用して世界市場へ展開しようという構想があります。特区では申請提案された32事業の中から、まずは放射光とシミュレーション技術を組み合わせた創薬開発、医薬品・医療機器等の輸出入手続きの電子化・簡素化など7事業に取り組むことになり、さまざまな規制緩和が申請されています。
─医療に関する規制緩和に問題はありませんか。
近藤 株式会社による病院経営や治験・臨床研究に係わる病床規制の特例、海外の医師免許の適用、医療機器の仮承認制度などは問題です。これらは国と地方の協議会での合意が必要で、問題のある項目の多くは合意に至っていませんが、現在も病床規制の緩和が継続協議になっているので注意が必要です。しかも協議がなかなか進まないために特区推進組織の一本化がおこなわれて関西広域連合が加わったため、特区申請していない自治体にも拡大する可能性が新たな問題として浮上しています。
─神戸市の特区の経緯について教えてください。
近藤 きっかけは平成7年の阪神・淡路大震災からの産業復興に向けた動きです。平成9年に神戸起業ゾーン条件を設けて企業誘致をおこない、その流れで平成10年には医療産業都市構想が打ち出され、高度医療技術の研究発展の拠点としてポートアイランドⅡ期を中心に医療関連産業を集積させ、そのために税制優遇、資金融資、補助金などの政策がおこなわれています。平成14年になると小泉政権のもとで構造改革特区が設けられることとなり、神戸市はその第1号として先端医療産業特区に認定され、その流れに乗り医療産業都市構想が加速しました。その後、平成20年に先端医療開発特区(スーパー特区)に認定され、再生医療など24のプロジェクトがおこなわれます。さらに平成23年に関西イノベーション国際戦略総合特区に認定され現在に至っています。このように神戸は震災復興や経済発展に医療を活用するという発想のもと、数多くの特区に認定されてきましたが、今年になって安倍内閣が日本再興戦略(JPAN is BACK)の柱として国家戦略特区の創設を示すとすぐにその認定を要望しています(表1)。医療産業都市は最近、神戸クラスターとよばれるようになりましたが、医療関係施設が集積し、中央市民病院と神戸バイオメディカル創造センターが隣接するなど、災害時のバイオハザードの危険性は否定できません。
─このような動きに対し、医師会はどのような方針ですか。
近藤 第1に、医療への市場原理主義の導入は反対で、国民皆保険制度を堅守します。特に混合診療の全面解禁を認めると、医療の平等という理念に抵触し、医療格差や国民皆保険制度の崩壊に結びつくと危惧しています。第2に、生命倫理の確保・医の倫理の遵守を求めます。遺伝子解析についても、包括同意という手法で献血の血液のゲノム解析がおこなわれようとしていますが、個人情報管理の体制や法律の整備がないままでおこなわれるのは危険です。第3に、医療の安心・安全の確保を求めます。一方で、新しい国家戦略特区では特区内で外国人医師による外国人患者の診察を認めようとしていますが、医療ツーリズムに結びつく可能性があります。また、中央市民病院と高度専門病院群を1つの医療機関として扱う特例措置を求めていますが、そもそも市民のための医療という目的に合致するのか疑問です。新しいmade in Japan の医薬品・医療機器が開発され、医療関連産業が発展することによって、神戸の経済が活性化することは医師会としても大いに賛同しています。しかし、行きすぎた規制改革がおこなわれないよう、注視していく必要があると考えています。

近藤 誠宏 先生

兵庫県医師会医政研究委員
近藤内科クリニック院長

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