2013年
9月号

ぶらり私のKOBE散歩 Vol.12

カテゴリ:KOBE散歩, グルメ

阪神間に花開く“おいしさ”を訪ねて

髙杉 良和
Yoshiwa Takasugi
御影髙杉パティシエ

美しい断面は、手づくりの証し

まずはご自身のお店、御影髙杉本店へ案内してもらおう。
今や神戸を代表するパティシエの髙杉さん。でも実は、もともとフレンチの料理人だったとか。「メニューは料理だけでは出来上がらないので、パンやワイン、デザートも学ぼうと。時間があれば何でもやりたいと貪欲でしたね」と製菓の道へ。やがてその師匠が離任する際に「明日からはお前のケーキをつくれ」と言われて編み出したのが、スクエア型のショートケーキだ。
厚めに焼いたスポンジをスライスし、その間に桜桃と生クリームを挟み、上にいちごを乗っけたショートケーキばかりだった時代、髙杉さんは小麦本来の味を生かすためにビスキュイを焼き、サンドにもふんだんにイチゴを使って形も四角く。でも奇をてらった訳ではなく、フランス菓子の基本に忠実な仕事ゆえ、味にブレがない。いちごの酸味とビスキュイの風味を生クリームがやさしく融和させる絶妙な味わいで、またたく間に人気商品に。
ショーケースに並ぶケーキはどれも「芸術」、特にその断面は鮮やか。ケーキの構造が見えるのは「偽りのない商品を」という髙杉さんのポリシーから。そしてもちろん、キレイに切れる技術があってこそ。サイズも大ぶりで満足感いっぱい。
洗練されたご自慢のスイーツとともに、英国アンティークのテーブルや陽光あふれるテラスで、ゆったり寛ぎのティータイム。うーん、これぞ神戸ならではの贅沢!

御影本店の店内は、アンティーク調な造りに。優雅な時間が流れる


もともとはフレンチの料理人だった髙杉さん。「メニューは料理だけでは完成しない」と、製菓の道へ進んだ


「偽りのない商品を」というこだわりから、ケーキは鮮やかな断面もしっかり見えるスクエア型


「白い部屋」を意味するその名の通り、白を基調とした、明るい空間が広がるサラブランカ店(御影本店の2F)


阪急御影駅からすぐ南の閑静な住宅地に位置する御影本店


■髙杉 御影本店

TEL 078-811-1234
神戸市東灘区御影2-4-10-101号
営業時間/10:00~20:00
定休日/不定休
http://www.mikage-takasugi.com/

「わが街スイーツ」はやさしい味わい

髙杉さんと洋菓子の名店めぐりへ。西宮から神戸にかけては全国屈指の洋菓子エリアで、中でも西宮は激戦区。ベルンは西宮を代表する洋菓子店のひとつ。社長の倉本洋海さんは髙杉さんと肝胆相照らす仲で、お互い「話が尽きないんです」。
価格も手頃でおいしいから、地元の人の支持多数。ほど近い甲子園にちなんだお菓子も人気だ。「倉本さんのお菓子には、地域への愛がいっぱいなんですよ」と髙杉さん。なるほど、ショーケースの前ではお客さん同士があいさつを交わしている。2階のカフェスペースも普段着の人でいっぱいだ。
「トライやるウイーク」で近隣の中学生の受け入れにも積極的。「子どもたちのレポートは財産ですし、地域の子どもたちの成長が嬉しいのです。街のためにも、これからも信頼を培って、夢を与える仕事を」と、職人気質の倉本さんは今日も、魂を込めてお菓子を焼いている。

ベルン社長の倉本さんとは大変親しく、話が尽きないとのこと


プリンアラモード(490円)、レアチーズ(380円)、渋皮マロン(300円)


ほど近い場所にある甲子園球場にちなんだ甲子園スイーツの数々は、お土産にも大人気


ほど近い場所にある甲子園球場にちなんだ甲子園スイーツの数々は、お土産にも大人気


伝統のやきドーナツは、油を使わないあっさりとした味わい


地域の人々に愛され、中学生の職場体験「トライやるウィーク」の受け入れにも積極的に取り組む



■ベルン甲子園本店

TEL 0798-47-4958
西宮市学文殿町1-8-19
営業時間/8:30~21:00
定休日/無休
http://www.e-cake.co.jp/

マイスターが作るドイツ菓子

芦屋市東山町の閑静な一角にある小さなドイツ菓子のお店「Stern(シュターン)」。オーナーの谷脇正史さんは、21歳でドイツ・ハノーファーの菓子店に弟子入り、厳格な制度で有名なマイスターの資格を取得した。こちらで店を構えて8年目、「基礎からしっかり学ばれたお菓子は美味しく、ドイツ文化の発信地でもあります」と髙杉さん。
膨張剤や防腐剤などを使わず、一本ずつ手焼きされるバウムクーヘン(410円~)はやはり一番人気。リンゴ・レーズン・アーモンドを包み込んだ「シュトゥルーデル」(380円)、など定番ドイツ菓子や、バウムクーヘンの生地のロールケーキ(600円)も人気。
バウムクーヘンを筆頭にドイツの基準を守りながら、ドイツとは食文化も空気も違う日本でも美味しく食べられるように、少しずつ谷脇さんのアレンジが加わっている。

谷脇さんは、ドイツ菓子のマイスターの称号をもつ


愛らしい店内には、谷脇さん自慢の商品が所狭しと並ぶ


チェリーのお酒を使ったキルシュシュニッテは400円


丁寧に手焼きされるバウムクーヘンが看板商品



■KONDITOREI Stern

TEL.0797-34-5673
芦屋市東山町1-10
営業時間10:30〜19:30
定休日/火・水曜

不易流行。これぞ洋食の極意なり

基本があってこそ、真の創造がある。髙杉さんとそんな価値観を共有する神戸精養軒の井上康司さんは浅草の生まれで、老舗、上野精養軒で腕を磨き神戸へ。「最初は関東の味が神戸で受け入れられるか不安でしたよ。しかも当時、店のまわりは田園。商売に不向きでしたしね」。
現在、腕を振るうのは二代目の康信さん。素材を見極め手間を惜しまぬという味の根本は、父と変わらない。その象徴、じっくり煮込んだデミグラスソースは薫り高く、濃厚な旨味に皿まで舐めたくなるほど。
しかし、伝統の継承だけでなく、真空調理やジュレソースなど新しい技術も採用。そもそも洋食とは日本人にとって進取的なもので、その精神が息づいている。そしてフライはカラッと、ハンバーグはふんわり、野菜はシャキシャキで食感が実に〝粋〟なのだ。江戸っ子の味は六甲の麓にしっかり根を下ろし、今日も神戸っ子を虜にしている。

ランチタイムのおすすめ、精養軒ランチ(¥1,575)にはこの店の魅力が詰まっている。中でもハンバーグは伝統のデミと最新の調理法が融合した逸品



「人を大切に」という信条は、料理のみならず店の空間にも。明るく落ち着いたダイニングでは、親子三代でなごやかに食事するお客さんの姿も


二代目の康信さんにとって創業者の康司さんは、「雲の上の存在」の料理人だとか。康司さんは後進の指導にも熱心


■神戸精養軒 本店

TEL 078-871-4488
神戸市灘区上野通7-4-17
営業時間/ランチ11:30~14:00 ディナー17:00~20:30LO(日祝は~21:00LO)
定休日/水曜
http://www.seiyo-ken.com/

髙杉良和(たかすぎ よしわ)

ホテルのフレンチシェフ、製菓長を経て、1996年「御影髙杉」をオープン。数々の洋菓子コンクールでも多数の入賞歴を誇り、2008年には、優れた技能者の証「ひょうごの匠」にも認定される。兵庫県洋菓子協会が開催する兵庫県洋菓子技術専門校で後進の指導を行う。

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