7月号
教養に根ざした実学教育を目指す —甲南女子大学
甲南女子大学
学長 松林 靖明さん
甲南女子大学は、品格と教養の備わった女性を育成するという学園創立時の基本を守りながら、時代のニーズに応える新しい取り組みを進めている。
教養だけでなく実学も取り入れる
―今年は大学開学50周年という記念の年ですね。
松林 大正9年、企業家でありながら教育にも広く力を尽した安宅彌吉が設立を提唱し、甲南高等女学校を開学して以来、甲南女子学園として94年の歴史を持ちます。創立当時から「清く 正しく 優しく 強く」を校訓に掲げ、教育と教養に重点を置きながら変遷してきました。昭和30年に短期大学開学、昭和39年には国文学科と英文学科を設置した4年制大学を開学しました。そこから甲南女子大学として50周年を迎えました。
―50年間、いろいろなことがあったのでしょうね。
松林 そうですね。50年間には社会状況も変化してきました。教育の理想と現実のギャップに悩んだ時代もあり、教員・職員揃って真剣な議論を重ねました。その結果、あくまでも「女子大」として生きていくという基本的な方針を定めました。女子大の共学化が進む時代でしたから大きな決断でした。そして時代のニーズに応え、教養だけでなく実学も取り入れていくことも決定しました。
―具体的には?
松林 まず、それまで学問として位置付づけていた教育を実学化するものとして、平成18年に人間科学部に総合子ども学科を設置しました。卒業後は保育士、幼稚園・小学校教員として社会で働くための免許取得を一つの目的としています。翌年には看護師や理学療法士を養成する看護リハビリテーション学部を開設しました。いずれも女性の力を発揮して社会に貢献できる分野です。
―建学の精神も具体化されたそうですね。
松林 「まことの人間をつくる」という建学の精神についても議論を重ねました。「全人教育、個性尊重、自学創造」という教育方針を基本に、現代における「まこと」を具体的に表すため「品格、国際性、社会貢献」を三つの柱としました。品格はまさに校訓の「清く 正しく 優しく 強く」、国際性は社会が求めるものです。社会貢献とは、社会で働き、社会を支える自立した女性を育てることです。しかし、単に就職に有利だからと資格を与えるのでは、大学としての意味がありません。教養に根ざした実学教育を目指すべきだと考えています。
50周年を機に貴重書を公開
―文化的環境にも恵まれたキャンパスですね。
松林 甲南女子大学のキャンパスは、主な建物のデザインや山裾の傾斜を生かした建物の配置から、一部の室内の調度品など、細部に至るまで建築家・村野藤吾の手によるものです。図書館では、源氏物語の最古級写本「梅枝」、古今和歌集の最古級完本写本が発見されています。また、50周年を機に、植物、動物、自然にまつわる範囲の広い分野での貴重書がそろっている「上野文庫」を調査しました。新たに何点か貴重書のお墨付きをいただきました。50周年記念行事で、これらの貴重書を公開する予定です。
―そのほかにも50周年記念行事の予定はありますか。
松林 今年1月、第150回直木賞を受賞した本学国文学科卒業生、作家の朝井まかてさんの講演会と対談、宝塚歌劇に関する公開講座を実施予定です。また、文学部メディア表現学科の講師で映画監督の白羽弥仁先生から提案をいただき、大学の「魅力」を伝える映像作品を制作中です。15分程度のショートムービーが完成予定で、毎日放送アナウンサーの松井愛さん、女優の街田しおんさんら同窓生も出演してくれています。素晴らしい作品ができると思います。私も楽しみにしています。
―長い歴史がありますから、多くの同窓生が社会で活躍されているのでしょうね。
松林 同窓会は全国8カ所に支部を置き、大学と中高卒業生を合わせると会員は3万人以上にのぼります。卒業生の多くが社会に出て活躍してくれています。作家や脚本家として活躍し、注目されている方も多数おられます。今話題の朝井まかてさん等…活躍して注目される存在だけではありません。私も昨年、東京の同窓会での講演を聴いて知ったのですが、病気の子どもたちを訪ねて励ますクリニッククラウンの活動をしている卒業生もいます。いろいろな場面で社会に貢献してくれているんですね。
より自立し貢献できる女性を社会に送り出す
―今の学生さんたちを見て、どんなことを感じておられますか。
松林 非常に前向きで元気だなあと思いますね。中でも看護リハビリテーション学部は、一期生から優秀な学生が入学しています。入学後も1年生から実習に出て社会に接し、礼儀や規律などを厳しく教育されます。それが全学に良い影響を与えてくれていると実感しています。
本学では1年生を対象にした「大学探検」という科目があり、その中の「学長とトーク」という講座で直接学生たちと接するのですが、多文化コミュニケーション学科の学生はやはり海外に目を向け、外国語を熱心に勉強しています。インドネシアへは毎年数人が国費留学するなど、積極的に留学や語学研修に参加しています。経済的な事情もあり、全員が行けるというわけではありませんので、カナダとアメリカの2大学に1年間留学生を1人受け入れてもらい、先方からは短期で10人来てもらって学内で交流するということも始めました。英語文化学科ではイギリスに続き、アメリカ、カナダでのインターンシップを進めていく予定です。
―今後の展望についてお聞かせください。
松林 大学にとってはますます厳しい時代がやって来ると思います。そういう状況の中で、本学は関西の女子大では4番目の学生数という強みを生かしていきたいと思っています。94年間で培ってきた教養の部分での女子教育をさらに強化しつつ、時代に沿った実学的な部分をどう融和させていくかを今後の課題としています。融和させることで、より自立し貢献できる女性を社会に送り出せると考えています。
松林 靖明(まつばやし やすあき)
1942年、東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。87年に甲南女子大学文学部教授となり、文学部長、副学長を経て現職へ。今年度より2期目。