3月号
フェリーさんふらわあで行く「ふぐと石仏のまち」臼杵への旅
薄く引けない臼杵ふぐ
ここで育った魚は恵まれている。豊後水道は瀬戸内海と太平洋の境界ゆえ2つの海の水が混じるため、餌となるプランクトンが多いだけでなく、激しい潮流に身をもまれる。まさにグルメとスポーツを両方たしなむ、セレブな魚たちなのだ。
中でも第一席は、とらふぐ。臼杵は人口4万人足らずの小さな街だが、ふぐを扱う店はなんと約40店舗もある。ふぐは地元の人たちが大切に育んできた食文化であるが、その美味と手ごろな価格ゆえ、全国から多くの人々が訪ねるという。
ふぐ刺しは器が透けるくらい身が薄いのが一般的だが、ここは違う。「臼杵」なのに「薄き」といかないのには訳がある。一般的には、1~2日寝かせるが、臼杵市では新鮮なうちに調理するため、身が活きており、薄く引けないのだ。しかし、この厚さが良い。やわらかさの中に弾力のある歯ごたえがたまらない。噛むほどに脂と旨味が滲み出て、名産のかぼすをふんだんに使ったポン酢が甘みを引き立てる。フレッシュで臭みなどない。
素材が良いから、どんな料理に仕立てても美味。唐揚げはぶつ切りにした骨のエキス。鍋や茶碗蒸しは出汁の滋味。皮はコリコリ。七変化するふぐの味わいに魅了される。
ふぐは冬の味覚というイメージだが、臼杵のふぐは年中味わえる。でも、せっかくなら脂がのった11月~3月の時期がオススメだ。
石仏のヒストリーはミステリー
臼杵に来たならここを訪ねずして帰るべからず。臼杵石仏は臼杵のシンボルであり、日本ではじめて国宝に指定された磨崖仏だ。
石仏は市街から車で15分ほどの静かな山里に佇んでいるが、4つの石仏群に60余体、うち59体が国宝という壮大なスケールだ。石仏が彫られたのは平安時代後期から鎌倉期といわれるが、いつ、誰が、何のために仏を刻んだのかははっきりとわかっておらず、謎に包まれている。
中でも古園石仏の大日如来像はひときわ大きく、おだやかな表情。ほんのりと彩色が残るが、湿気のある時期はそれが鮮やかになるというから不思議だ。少し伏し目がちだが、これはお寺の仏像と同じく「丈六」という基準に忠実で、座って拝むと目線が合うようになっている。
西方浄土から光を照らすように、東を向いた13体の荘厳な仏像の前には祈りの煙が絶えないが、よく見ると線香には「良縁祈願」や「家内安全」などの文字が。大日如来像は全ての願いを受け入れる仏様であるが、太古の地震で頭部が落ちたものの平成5年の補修で首が繋がったことで、リストラ除け祈願も増えたそうだ。ちなみに祈祷用紙に願いを書けば、特別祈願法要で奉納してくれる。
山王山石仏からホキ石仏群にかけては、人間の誕生から極楽浄土までのストーリーを刻んでいるといわれている。阿蘇の火山灰が固まった凝灰岩ゆえに風化が著しい場所もあるが、その有り難さは心に迫るものがある。
石仏群の東側には、かつて広大な伽藍があったとされる。今は公園になっており、春は芝桜、夏は蓮が綺麗だそうだ。また、ボランティアガイドさんのお話も興味深い。訪ねた際にはぜひ耳を傾けよう。
石仏参りのおみやげには、ほんのり生姜の風味が効いた臼杵煎餅が欠かせない。駐車場前の後藤製菓石仏会館では、煎餅に刷毛で生姜糖を塗る手づくり体験も楽しめる。
初めてでも懐かしい城下町
臼杵城を築いたのは、キリシタン大名として知られる大友宗麟。ここを居城とした後に九州探題に任ぜられ、臼杵は九州の「都」として発展、その繁栄ぶりはイエズス会の宣教師たちによりローマにまで伝わった。関ヶ原の合戦後は美濃から稲葉氏が入封、明治維新までこの地を治めた。
丘の上の臼杵城趾を仰ぐ街並みは、城下町特有の迷路のような小径に、古くからの社寺や町家が立ち並ぶ。二王座歴史の道や稲葉家下屋敷など、しっとりとした風情の街は歩いていて楽しい。廃寺や蔵を改修したギャラリーのほか、武家屋敷を活用したカフェ、宗麟の時代の修道院を模した「サーラ・デ・うすき」や観光交流プラザなど、気軽に休憩できるスペースが多く、自分のペースで散策できる。そして何より、街の人たちが何気なくあいさつを交わしてくれる、心温まる街だ。
臼杵は醤油の街でもあり、質・量とも九州一だ。城下町に佇むカニ醤油は1600年創業の九州最古の味噌・醤油屋さん。昔ながらのお醤油のみならず、「ジェームス・ポンズ」などユニークな商品はお土産にも好適だ。味噌造り体験もできるので、旅の思い出にいかがだろう。(要予約・TEL.0792-63-1177)
臼杵醤油の代表格、フンドーキンの工場にある高さ・直径とも9mの世界一大きい木樽も必見だ。仕込まれる量はなんと540㎘。この中で3年かけてじっくり熟成させる。最新鋭の醤油づくりの見学も面白い。
ほかにも餌にかぼすを加えた「かぼすブリ」、お釜を借りるくらいご飯がすすむという地魚の「かまがり」など、名物には枚挙に暇がない。温泉、石橋、鍾乳洞、吉四六さんの里などなど、書き切れないほどの魅力を持つ臼杵へ、この春はさんふらわあに乗って訪ねよう!