3月号
フランク・ロイド・ライト その思想と建築を今に Vol.8
自然とともに
有機的単純性は、見ようと思いさえすれば、そこかしこに現れてくる。それは、峻厳でありながらも調和した秩序のなかで、意味のある個性をつくり出す。この秩序こそ、自然という名で呼び習わしているものなのだ。私は農場でそのことをあますところなく知った。私は、身のまわりのすべてに、成長するものの美を発見する。いや私だけでなく、この問題に注意を向ける人であれば誰だって同じだろう。さらに少々眼をこらせば、それがいかに「美」へと成長していくのか理解することができる。無意味なものなどひとつもない。私は本能から大平原を愛していた。それが、偉大なる単純性を示していたからである。 ―――フランク・ロイド・ライト
大地に一粒の種が落ちる。そこに風が吹いて土が覆いかかり、雨が降って湿り気が与えられる。種は眠りから覚め、芽吹いて、根を下ろす。陽光を浴び、気温に育まれ、やがて葉を広げて育ち、花を咲かせる。
自然には摂理がある。少年時代にウィスコンシンの農場でその姿を見つめ、愛してきたライトは、自然の中で自ずと育っていく花や鳥に、日々表情を変える空に、美を見出していたのだろう。
ゆえに、彼は建築にも摂理を追い求めた。住む人と建物、装飾や調度品、そして周りの環境が調和した秩序の中にあれば、家自体が自然であるとともに、住む人も自然で居られる。そのために建築を環境として捉え、自然の事物に潜む形式を家づくりにオーバーラップさせた彼の発想は、それまでの建築の枠を超越し、ひとつのスタンダードとして今も朽ちることなく輝きを放っている。
ライトの思想を継承したオーガニックハウスは、まるでひとつの生命体のように、調和した秩序に包まれている。空間のつながり。何気ない装飾。素材の質感。そして何より居心地の良さがその証左だ。
そして、住まいは成長する。時とともに住む人との共鳴を深め、使い込むことに味わいが生まれる。それは個性となり、美となって、より我が家を愛おしく感じるだろう。
でもやがて、花が枯れ種を落とすように、建物もまたその使命を全うすべき時期が来る。しかし、木やレンガ、漆喰などの自然素材をふんだんに使用したこの家は、大地に還り新たな生命の源となるだろう。
自然の家。自然な家。この家の摂理は、生活のみならず、人間としてのあり方をも変える力がある。