4月号
対談/進化する名門私立中学校 第5回 六甲学院中学校
自然豊かな高台で、社会に向けての広い視野を育む
六甲学院中学校・高等学校 校長 古泉 肇
日能研関西本部 代表 小松原 健裕
名門私立中学校に多くの塾生を合格させている日能研関西代表の小松原健裕さんと関西名門校校長の対談。
第5回目は、六甲学院中学校・高等学校 校長の古泉 肇さんにご登場いただきました。
イエズス会が教育の地として選んだ六甲山の麓の地
小松原 日本初のカトリックの大学である上智大学を創設したイエズス会が、続いて中等教育の場所を探していました。そして1937年、六甲中学校が設立されましたが、なぜこの地が選ばれたのでしょう。
古泉 宝塚売布と神戸六甲が候補に挙がりましたが、宝塚は少女歌劇が近過ぎて男子の教育には不向きだと初代校長が考えたと噂では聞いています(笑)。実際は、六甲山の麓の豊かな自然に囲まれた高台で見晴らしが非常に良く、視野の広い人格形成ができるというのが理由だと思います。
小松原 私は年2回、学校見学会と入試の時に伺いますが、本当に素晴らしい環境ですね。見学会では子どもたちと一緒に阪急六甲駅から、息を切らしながら坂道を上るのですが、着いてからの見晴らしの良さ、特に新校舎5階にある図書館からの絶景に、しんどさが吹っ飛びます。通常は学校内の目立たない場所にある図書館が、一番眺めの良い所にあるのですね。
古泉 図書館は普通生徒たちが利用しやすい1、2階に置くのが一般的ですが、高台を選んだ初代校長の意思を尊重し、新校舎設計段階で5階に置くことを提案しました。「生徒たちが足を運ばないのでは?」と反対意見もありましたが、実際はよく利用してくれています。
小松原 初代校長は「永遠なるものを探求する」とも仰っておられたそうですが、どういう意味があるのでしょうか。
古泉 六甲学院はミッションスクールですが、戦前の社会情勢に配慮し、「神」という言葉を「永遠なるもの」と置き換えておられました。中高生の多感な時期に、人間を超越する存在に気づき、あらゆる社会の歪みは、人間が自分たちの力を過信し、謙虚さや永遠なるものに対する畏敬の念を忘れていることに起因すると気づいてほしいという思いが込められています。
小松原 初代校長の思いを大切にされているのですね。
古泉 初代校長は辞められるとき、自身の絵や銅像は残したくないと、開校直後の阪神大水害で裏山から流れてきた石に言葉を刻まれました。また、人間を超える存在との出会いの場として1万坪の庭園を敷地内に造りました。この石碑と庭園は、六甲学院の宝として代々伝えていきたいと思っています。
心身鍛錬の厳しい教育には意味がある
小松原 六甲学院の特徴を紹介するに当たっては、中間体操とトイレ掃除の話題は欠かせません。他の学校にはないですね。
古泉 2時限目と3時限目の合間、授業への集中力が途切れがちなときに緊張感を取り戻そうという意味合いがあるのが中間体操です。トイレ掃除は素手で亀の子たわしを使い、裸足で上半身裸というスタイルです。どちらも基本的には心身の鍛錬ですが、伝統を受け継ぎ、時代、時代に合わせて付加価値を付けながら続けてきています。
小松原 保護者の皆さんの中には、たくましく、他人の痛みが分かる心を育む六甲学院のファンがたくさんおられます。以前は、上半身裸で走ったり、掃除させたり、うちの子にはやらせたくないという親御さんもおられましたが…。
古泉 厳しい教育の意義や理由を外に向けてあまり発信していなかったということもあったと思いますが、最近は積極的に発信するようにしています。また、時代が六甲学院の教育の追い風になっているという一面もあります。例えば、社員教育にトイレ掃除を取り入れている企業が増えています。緑の環境の中で水の流れる音を聞きながら勉強すると学習効果が上がるなどといわれています。本校では授業の最初と最後に瞑目の時間を取りますが、それが学んだことを記憶領域に移すのに効果的だと盛んに言われるようになりました。
中高一貫だからできる教育や活動がある
小松原 高校2年生が入学したばかりの中学1年生を指導することは、上級生にとっても、よい勉強になると思います。
古泉 先輩が教師の役目をして後輩を指導、管理するというのは戦前の学校ではよくあったことですが、戦後の民主主義の中で形を変え、優しいお兄さんたちが後輩の面倒を見るという意味で続けてきています。特に中学1年生は、中1指導員とよばれる優秀な高校2年生から指導を受け、将来自分もあんなふうになりたいと思う、とても良いサイクルが伝統になっています。これも中高一貫校だからできることのひとつです。
小松原 最近はいろいろな学校がボランティア活動に積極的ですが、六甲学院はずっと以前から奉仕活動にも力を入れておられますね。私も赤い羽根募金の活動をしている生徒さんを見かけたら協力するようにしています。
古泉 坂道を上ると、自然に囲まれた素晴らしい環境の下で学習することができます。坂道を下ると?この部分の意義づけができていませんでした。坂道を下るということは、六甲学院で学んだことを社会に出て世のため人のために使うことです。この欠けていた部分を補おうと、40年程前から三代目校長の下、生徒たちが校外へ出て、社会奉仕活動に力を入れるようになりました。また、六甲学院は開校当初、ドイツやアメリカなど海外各国から援助を受けました。その恩返しとして現在、東ティモールやインドなどの学校を支援しています。
根気強さが試される六甲学院の入試問題
小松原 六甲学院の入試は考えさせる問題が多いですね。パターン問題が解けるだけでは難しく、しっかりと問題を読んで理解して考えていけば、知識が少々足りなくても解けるようになっていると思います。
古泉 クイズ的な問題はあまりないのは確かです。国語ならじっくり考えなくてはならない問題、算数は読解力がないと解けない問題が多いと思います。
小松原 日能研から毎年50人から60人ぐらいの子どもたちが入学していきますが、じっくり考える根気強さをもてば合格できると話しています。
古泉 どの子が日能研出身かということは意識していませんが、日能研の生徒同士は入学後も仲が良いようですね。校外でも、六甲学院の良さをアピールしてくれているようです。学校の評判は口コミが一番大きな要素ですからありがたいことだと思っています。
小松原 学校生活のことは、在校生が話すと一番説得力がありますからね。
どんな分野でも、世のため人のために働いてほしい
小松原 卒業後の進学先が幅広いのも特徴だと思いますが、生徒さんにはどんな将来を期待されていますか。
古泉 どんな分野に進んでも「いい職業人」になってほしいですね。例えば、医者になるのなら「いい医者」、弁護士になるなら「いい弁護士」という評価がもらえる、世のため人のために働く人になってほしいと思っています。ただし、大学進学に関して本校の世間的評価がまだまだということは自覚しています。生徒たちがより上を目指す高い志に少し欠けているように思います。チャレンジ精神を養うことが大きな課題です。
小松原 今日は六甲学院の教育方針や考え方をお聞かせいただきありがとうございました。私たちも保護者の皆さんにお伝えしていきたいと思います。
古泉 よろしくお願いいたします。
古泉 肇(こいずみ はじめ)
六甲学院中学校・高等学校 校長
1954年、神戸市生まれ。京都大学理学部数学科卒業。母校の六甲中学校、六甲高校にて、数学科教諭として勤務。1999年以降、新校舎建築委員長、教頭、校長として、学校改革に取り組む。2016年より学校法人 上智学院の評議員を兼務
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる