8月号
シームレスな 地域連携医療を 目指して
1960(昭和35)年に開設された新須磨病院は半世紀以上にわたり、地域の中核病院の役目を果たしている。慈恵会が目指すシームレスな医療提供とは。澤田院長に伺った。
―最近よく聞くシームレス医療について教えて下さい。
澤田 シームレスとは直訳すれば「境目がない」という意味です。病院の機能は、急性期、回復期、在宅、介護施設などに類型化されます(図1)。急性期が終わった患者さんは治療からケアへと次第に移っていきますが、全てを新須磨病院で担えません。地域の他の病院、他施設と連携していくのが理想的ですが、なかなか簡単には進みません。例えば、一人の患者さんを他病院にお願いする際には、それぞれに開設されている地域連携室に詳しく説明し、そこからドクターとのやり取りが始まります。情報交換にかかる手間と時間がシームレスを妨げています。同じグループに属していれば境がなく、日ごろからドクターやスタッフの交流があり、ある程度、情報を共有できていますから、スムーズに進みます。
―慈恵会に属する12施設間ならスムーズということですね。
澤田 もちろん全てのケースでスムーズに進むというわけではありません。患者さんの希望もありますし、グループのキャパシティーにも限界があります。特別養護老人ホームや認知症専門施設などは慈惠会にはまだありません。しかし、グループ内で可能な場合は、ほかに依頼するよりかなり手間と時間が省けます。新須磨病院からグループの病院や施設へ、またその逆のケースもあります。例えば、リハビリテーション病院の患者さんが転倒、骨折したという場合、新須磨病で受け入れれば、情報交換にかかる手間や時間が少なくてすみます。
―開設当時からシームレス医療を目指していたのですか。
澤田 震災後、リハビリ病院や介護施設などを開設してから、「シームレス…、これはなかなか良いシステムだ」と感じるようになりました。目指したというよりは、結果として生まれたと考えています。
―公的な病院との連携もあるのですか。
澤田 もちろんあります。呼吸器系や心臓循環器系など、当病院が弱い分野では常に公的総合病院と連携をとっています。
―神戸大学附属病院の杉村院長や、神戸大学大学院保健学科の三木先生とは同窓だそうですね。
澤田 そうです。先輩、後輩、同期などのつながりはやはり大切です。直接電話して、患者さんの状態を説明して「頼む」と言えば、一番早いですからね(笑)。
人材育成に力を注ぐ
―教育部門としては神戸総合医療専門学校がありますが。
澤田 1973(昭和48)年、私の父・現理事長の澤田善郎が設立しました。当時不足していたレントゲン技師育成のための学校として立ち上げ、それに付随して、今も昔も不足している看護師を養成しようと2学科で開校しました。須磨に移転してから、リハビリテーション科、臨床工学科をはじめ、時代のニーズに合わせて学科を増やしてきました。現在8学科、約800人が在校しています。医療専門学校としては日本で一番大きな規模といわれています。
―病院では看護師の教育にも力を入れているそうですね。
澤田 医師とともに看護師は病院にとっては大きな力です。看護師が足りなくて、病棟を閉鎖しなくてはならない病院もあります。病院職員の半数以上が看護部スタッフですから、その大所帯をまとめて、全体の質を高める必要があります。誇りとゆとりを持って働きたい、勉強してスキルを高めたいと思っている看護師は多いですからね。やりがいをもって仕事ができるように研修制度などを設けてモチベーションを高める努力をしています。電子カルテ導入も看護師の働きやすさの基準になるようです。
―既に導入されているのですね。
澤田 電子カルテは神戸市では一番に導入しました。グループ内のリハビリ病院とはネットワークでつながっています。
独自性のある病院づくり
―病院内では色々な特殊な治療も実施されているようですね。
澤田 私の父、現理事長は非常に〝あたらしもん好き〟です(笑)。例えば、MRIを取り入れたのは日本で4番目。1992(平成4)年に取り入れた、脳の放射線治療機器のガンマナイフも日本で八番目、愛知県以西では一番。もっと古くは、結石の破砕治療も日本で2番目。機器に限らず、10年前から開設した創傷治療センターでは、糖尿病などから来る足の壊疽等の患者さんに対して切断せずに治療を行っています。他の病院では実施していませんから全国から患者さんが来ておられます。病院づくりには、こんな機器が必要、こんな治療が必要という現場からの声を最も大切にしています。それが独自性のある病院づくりにつながっています。「この機械使ったら儲かりまっせ」というのではダメですね(笑)。
―高い技術と知識を持った優れたドクターがいるのですね。
澤田 約80%のドクターが神戸大学からきています。良い先生方に恵まれていると思っています。
―グループ内の「日本二分脊椎・水頭症研究振興財団」については。
澤田 小児脳神経の権威・松本悟先生の「退官後に小児の先天奇形の研究支援と啓蒙活動をしたい」という思いに理事長が共鳴し、資金を投入して1993(平成5)年に財団を設立しました。厚生労働省の認可を得た全国的な非営利組織です。世間からはあまり注目を受けない分野ですので、非常に意義のある活動だと思っています。
これからも地域に根ざして
―最後に、これからの慈恵会が進む方向をお聞かせ下さい。
澤田 患者さん、利用者さんの希望やニーズは非常に高くなっています。医療の流れは作りましたが、その一つひとつの質を高め、充実させなくてはいけません。医療経営とは、下りのエスカレーターを上っているようなものです。絶え間なく、質の高い医療に取り組み、人を育て、機械を導入するなどしなくては維持できません。新須磨病院の緊急の課題は建物だと思っています。早急に取り組むべき問題です。
―移転ということも?
澤田 慈恵会関連施設はこの周辺にまとまっていますから、この地域を離れることはありません。
―それは地域の人たちにとっては安心材料ですね。地域医療の核として、ますますのご発展を期待しています。
澤田 勝寛(さわだ かつひろ)
医療法人社団 慈恵会 新須磨病院
院長
1952年神戸生まれ。1978年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部第二外科、兵庫県立淡路病院等を経て1996年9月より現職。2002年神戸大学経営学部経営学研究科卒。現在、神戸学院大学薬学部客員教授、日本二分脊椎・水頭症研究振興財団専務理事。阪神淡路大震災後、佐々淳行氏に師事しリスクマネジメントを学ぶ。
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2012年 9月15日(土)・10月20日(土)・11月17日(土)・12月8日(土)・
2013年 2月2日(土)
13:00〜16:00(受付12:30〜)