8月号
3.11とつながる 絵の力で被災地に寄り添いたい
お話をうかがった方/
アトリエ太陽の子 代表 中嶋 洋子さん
今年4月、神戸の子どもたちが描いた大きな「命の一本桜」が、東北の小・中学校に届けられた。岩手県の大船渡市立大船渡小学校ではその一本桜のもとで、入学式が行われた。手形によって描かれたこの桜、絵の具を手のひらで紙に押すとき、中嶋さんは必ずこう子どもたちに話す。
「まず自分の胸に手をあてて、そして東北の子どもたちに、『私たちは友達だよ、あなたたちのことを忘れていないよ』という気持ちを込めて、押してくださいね」。それを聞いた子どもたちが、真剣に祈りながら手形を押す姿はとても印象的だった。
最初に桜の花を東北に送ったのは、昨年の東日本大震災後すぐ、4月25日のこと。中嶋さんは17年前の阪神・淡路大震災で体験した、暗くほこりっぽい避難所のことを思い出し、寒い避難所にせめて春が来てほしいと桜の絵を贈ることにした。震災翌日の3月12日から兵庫県内の小中高生が描いた桜は桜前線とともに北上し、宮城県、岩手県内の小学校や避難所に贈られた。
「絵を描く私たちが、何をできるかを考えよう」と、これまで新潟県中越地震、四川大地震、スリランカの大津波などの被災地に絵画を通じた支援を行ってきた中嶋さん。今回、桜の絵とともに絵の具などの画材を持っていき、東北の学校や避難所で青空絵画教室を開催。校庭にブルーシートを敷き、大きな鯉のぼりの絵を描いた。震災後初めて絵を描いた! こんなに楽しかったことなかった! と喜ぶ子どもたちの歓声が響きわたったという。絵の具やクレパスは、メーカーからの寄付が多数寄せられ、数百名の子どもたちが元気に絵を描いた。
「被災地には何度も行きましたが、まだがれきが残る中を、子どもたちが毎日登校している姿を見ました。私たち大人でさえ耐えられない光景なのに、子どもたちは一体どう感じているでしょう」と中嶋さん。学校では笑っていても、仮設の家に帰ると壁に向いて泣いてばかりいる子も多いという。そんな子どもたちに両親もどうしていいかわからず、また、その両親や、先生も、自身も傷ついているにも関わらず、子どもたちのケアを優先している。
「震災から一年半。神戸で震災を経験した方ならおわかりになると思いますが、被災後すぐは必死だったけれど、数ヶ月、一年とたつと現実が見え、心が折れてくる時期。このときいちばん欲しいのは、人の心の温かさでした。東北には、心のケアがまったく足りていないと思います」と、中嶋さんは「痛みを知る神戸だからこそ心を込めて寄り添える」と、改めて活動の継続を決意する。
■アトリエ太陽の子
神戸市東灘区住吉本町2-17-17
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