8月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 59
最近の子どもたちに目立つ姿勢の乱れ姿勢は健康や社会性の土台という意識を
─最近、子どもたちの姿勢の乱れが指摘されていますが。
入江 本来、気をつけの態勢が姿勢の基本でありはじまりですが、気をつけすらできない子どもの多さに驚いています。とある小学校から転ぶ子が多く、転んでも手をつくことができずに顔面をぶつける子どもも増えていると相談を受けました。そこで、改めて子どもたちの様子をみてみると、姿勢や体つきのバランスの悪さが目立ちます。
─良い姿勢とはどのようなものでしょうか。
入江 みなさんが健康に生活していく上で、姿勢はとても大切です。人間には常に重力がかかっています。つまり、ただ立っているだけでも、曲げる筋肉と伸ばす筋肉を相拮抗させバランスを保つことで、姿勢が維持されているのです。しかも、その重力の負担のかかる場所を一点ではなく、できるだけ分散させることが大切です。良い姿勢を保持すると、持続的に筋肉が働き運動することと同じになります。「静になる動(筋力)がある」意識が大切です。基礎運動学では①疲れにくい ②体に負担がかからない ③動きやすいの3点が良い姿勢の条件とされていますが、さらにグラグラせずに見た目にもしっかりしている「安定性」、各発達段階に合わせた機能が備わって使用できる「機能性」、次の動作への準備ができ対応できる「即応性」も重要です。かかとをつけつま先を60度に開いて気をつけをして、そのまま手のひらを上に向け両手を目の高さまで上げる姿勢(写真)を一定時間グラグラせずに保てるかで良い姿勢ができるかどうかわかりますが、今の子どもたちは1割くらいしかできないのが実情です。
─姿勢が悪いと体にどのような影響が出てきますか。
入江 姿勢が悪いと一か所だけに負担がかかってしまいます。ある筋肉は収縮し続け、ある筋肉は伸びっぱなしという状態になると、いわゆる「こり」や痛みという症状になって現れます。また、姿勢は次の動作に移る準備としても重要です。姿勢を保ちいつでも筋肉が動ける状態にしておくことが、連続した動作につながります。しかし、姿勢に偏りがあるとどこかで動作にブレーキがかかり、筋肉や骨の疲労や痛みに結びつきます。さらに学習能力や集中力の低下や視野の減少、パフォーマンスの低下、疲れやすいといった影響も出てきます。
─なぜ姿勢が乱れるのでしょう。
入江 全体的な運動量や負荷量の減少、筋肉の偏った使用、運動経験の不足などが挙げられます。特に子どもは経験の不足が大きいので、日常から運動のみならず、さまざまな経験を積ませてあげましょう。
─親の役割も重要ですね。
入江 まずしっかりと気づいてあげること、スキンシップをとって子どもの体に触れることが大切です。歩行のことを考えると靴選びもポイントです。感覚を養うために底の薄い靴やひも靴を選ぶと良いでしょう。また、姿勢は健康のみならず、社会性を育むためにも欠かせません。オンオフのけじめをつけさせ、例え短い時間でも集中させて、食事の時や大切な話をする時には背筋を伸ばさせるなどの躾も重要です。子どもに任せておいては改善されませんので、指導と評価というステップで正しい意識を身につけさせましょう。子どもの姿勢の乱れには、親としての〝姿勢〟の乱れが反映されているといっても過言ではありません。
─姿勢を良くするためにはどうすればいいでしょうか。
入江 体のバランスを整えた上で必要な筋力を養い、体をコントロールする感覚を植え付けましょう。そのためにも日常の中でもさまざまな経験を積ませることは大切で、例えば歩くという行為ひとつでも道路を歩くだけでなく、山を歩く、後ろ向きに歩く、駆け足をするなど、さまざまな筋肉を動かすことで姿勢感覚を育むことができます。また、特に女子は第二次性徴前後に体の基礎ができてしまいます。ですから、その前の時期にきちっとした意識を習慣つけることが大事で、そのための環境を整えることも重要です。姿勢は心身のバランスの土台であり、生きる〝姿勢〟そのものです。また、姿勢が良い人は認知症になりにくいともいわれています。子どもたちだけではなく、何歳でも姿勢は健康や生活の質に結びつきますので、もっと姿勢に意識を持ちましょう。
入江 正一郎 先生
神戸市医師会理事
入江医院院長