2016年
2月号
六甲山牧場内にある「六甲山Q・B・Bチーズ館」。展示ホールではチーズの秘密や歴史について学ぶことができるほか、カマンベールチーズの製造過程も見学できる

企業経営をデザインする(5)|健康で、明るく、楽しい食文化を提供

カテゴリ:グルメ, 経済人

六甲バター株式会社 代表取締役社長 三宅 宏和 さん

神戸から日本全国へチーズを届ける六甲バター株式会社。「Q・B・Bチーズ」といえば知らない人はいないほどのシェアを誇る。昨年1月、社長に就任した三宅宏和さんに、守るべきものや新たな取り組みなどお聞きした。

日本中で知らない人はいない「Q・B・B」

―ブランド名「Q・B・B」の意味は。

三宅 「Quality’s Best&Beautiful」最高の品質と最高の美味しさという意味です。プロセスチーズの製造を始めた1958年当時に使っていた原料輸入先の、オーストラリア・クイーンズランド州酪農組合の頭文字をそのままに、食品会社として最も大切な品質と美味しさにマッチしていると塚本哲夫会長が考案した造語です。

―塚本会長から社長を引き継ぎ 1年が過ぎましたが、今の感想は。

三宅 昨年は家庭用チーズの売上が好調でした。結果として12月の決算で増収・増益を達成できそうで、社長としての責任を一つ果たせたとホッとしているところです。

―家庭用チーズ好調の要因は。

三宅 主力のプロセスチーズが非常に好調だった理由の一つとして、外で飲食するよりも「家飲み」が増える傾向にあることが挙げられます。また、一昨年のNHKドラマの影響でウィスキーの売上が伸び、ワインを好まれる人も増え、おつまみにチーズを食べていただいているのではないかと思います。

―売上好調な主力商品は。

三宅 ベビーチーズが好調です。レギュラー9品種に加え、プレミアム4品種、昨年は夏にはビールに合うベビーチーズを2品種、秋にはワインに合うベビーチーズを3品種発売しました。その他、6Pチーズ、キャンディーチーズなど、おつまみ、おやつとして食べていただくジャンルの製品が好調です。

―新商品もありますか。

三宅 新ジャンルとしてチーズデザートを開発販売しています。数年前、クリームチーズを使ったデザートをお手軽に楽しんでいただこうと6Pチーズタイプのチーズデザートバニラを発売したところ大変好評で、シリーズとして現在は5品種を出しています。さらにリッチなフロマジュエル4品種も発売しています。プロセスチーズでナチュラルチーズのコクと風味を作り出せないかと開発した「濃硬チーズ」シリーズは、今後時間をかけて育てていきたい商品です。

―素晴らしい企画力ですね。

三宅 企画・開発と製造、販売の3部門がうまく組み合わさって初めてヒット商品が生まれます。弊社では技術開発研究所と品質保証部門を工場内に置いていますので、企画開発と製造及びその品質チェックが一体となっていることが強みだと思っています。

社員一人ひとりが会社経営の意識を持つ

―製造部門から常務という立場を経て、社長に就任されましたが、社長としての役割については。

三宅 「健康で、明るく、楽しい食文化の提供によって社会に貢献する」という六甲バターの理念を従業員に浸透させるのが社長の役割です。そのためには社長と従業員がコミュニケーションを十分に取れる体制がある、「風通しの良い」会社でなくてはいけません。私は長年、製造、設備開発部門にいましたので、今まで十分ではなかった営業部門との距離を縮められるように、出来るだけ全国の支店・営業所に出かけ、部門別会議にも出席し、若い人たちと話すよう努めています。売上・収益の状況も含め仕事の進捗状況を把握し、後は一杯飲むことも…。従業員各々の仕事や人柄を知るのも大切なことです。

―塚本会長から社長を引き継ぐにあたって印象的な言葉はありましたか。

三宅 塚本会長は30年にわたり社長を務めてきました。私が入社した直後からですので、特に引き継ぐ時というわけではなく、いろいろな手腕を見て言葉も聞いてきました。ここ数年特に言われているのが「自分CEO」という言葉です。つまり一人一人が最高経営責任者であるという自覚を持って仕事をするということです。弊社が現在採用しているアメーバ経営においても、それぞれの部門で「収益を上げていくんだ」という意識を持って働くことは、楽しく生き生きと働くことにもつながります。

―アメーバ経営とは。その成果が売上・収益増に功を奏しているのですか。

三宅 部門別採算制度です。製造部門が営業部門に製品を売るという社内売買をしますから、値段を設定し、製品を売らない限りは利益が出ません。製造コストを下げるという従来の意識から、生産量を上げて利益を上げるという意識に変わり、営業からの注文を取ってたくさんの製品を作るという考え方に変わってきています。昨年6年目を迎えたのですが、生産量、販売量共に増えています。意識改革が目に見えて効果を上げている結果だと思っています。

―新商品発売にも影響しているのですか。

三宅 新しい企画への対応においても、従来製造部門ではコストを下げる意識が強かったものが、新製品が売れれば利益につながるわけですから、どんどん作ろうという積極的な姿勢になってきました。

―社員全員に浸透させるのは難しいのでは。

三宅 企業の理念や仕事への考え方、アメーバ経営について、塚本会長が発案しプロジェクトを立ち上げ皆で相談しながら作った「六甲バターフィロソフィ」を社員全員が共有しています。69項目あるのですが、詳細は門外不出です。

プロセスチーズのバラエティーを日本から世界へ!

―大筋合意に至ったTPPは今後影響があるのでしょうか。

三宅 弊社では原料のナチュラルチーズの約80%を海外から輸入しています。合意されたTPPの内容によると、現在29・8%の関税を今後16年間かけてゼロにするということですから、発効されてすぐに状況が変わるわけではありません。長いスパンで見れば、段階的に原料調達の選択肢は増えてくるものと考えています。

―今後の展開について。

三宅 ナチュラルチーズをたくさん食べる欧米に比べてチーズ消費量はまだまだ少ない日本ですが、バラエティーに富んだプロセスチーズを楽しんでいる国は他にありません。弊社のプロセスチーズ製造技術は世界一。いろいろなプロセスチーズを世界中で楽しんでいただけたらいいですね。国内消費量を伸ばすことはもちろんですが、輸送や保存などさまざまな問題を解決しながら、世界に向けて展開を広げていきたいと考えています。

―世界中で知らない人はいない「Q・B・B」を神戸から!楽しみにしています。

経営理念や仕事への考え方などについて69項目が記された「六甲バターフィロソフィ」


Q・B・Bは“Quality’s Best & Beautiful”の頭文字で 「最高の品質と美味しさ」という意味


チーズの生産体制強化をはかるため、2008年3月に操業開始した稲美工場の第5プラント


素材にこだわったワンランク上の「プレミアム」シリーズ


家飲みのおつまみに手軽さが人気の「ビールに合う」シリーズ


サーモンやサラミなどと組み合わせた「ワインに合う」シリーズ


チーズデザート「フロマジュエル あまおう苺」。「あまおう」の濃厚な甘みと酸味がマッチした贅沢な味わい


チーズデザート「フロマジュエル 濃厚ショコラ」。クリームチーズの濃厚感とチョコレートの口溶けが、生チョコのような風味


プロセスチーズでナチュラルチーズのコクと風味を作り出した「濃硬チーズ」シリーズ


六甲山牧場内にある「六甲山Q・B・Bチーズ館」。展示ホールではチーズの秘密や歴史について学ぶことができるほか、カマンベールチーズの製造過程も見学できる

三宅 宏和(みやけ ひろかず)

1952年生まれ。1976年、岡山大学工学部卒業。1976年、六甲バター株式会社入社。生産管理グループ長、生産管理グループ長兼生産グループ長、取締役生産グループ長、取締役稲美生産部長、常務取締役生産本部長 兼 稲美工場長を経て、2015年に同社代表取締役社長に就任

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