3月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第七十回
粗食は老化を早める ~食事はバランス良くしっかりと〜
─年を取ると粗食になりがちですが、粗食が老化を早めるというのは本当ですか。
橋本 今回は、昨年9月に神戸で開催されたG7保健担当大臣会合に合わせて開催された兵庫県医師会主催のフォーラム講演での、東京都健康長寿センター研究所副所長の新開省二先生のお話を簡単にご紹介します。さて、年齢を重ねるとだんだん食が細くなって、粗食で良いと思っている方が多いようですが、新開先生の研究ではこれは間違いで、高齢でもしっかり食べないとかえって老化は進み、介護保険のお世話になる率が高くなるそうです。
─どのような調査でそれがわかったのですか。
橋本 全国各地の65歳以上の高齢者を対象に、実際に食べ物の指標となる血液中のたんぱく質や脂肪、貧血の値を調べて、その人たちが10年後にどうなっていったかを調べました。
─具体的な食事の内容での調査ではないのですね。
橋本 ええ、実際に食事の内容を調べるのは難しいのです。例えば何を食べているのかを聞かれると、粗食だと恥ずかしいので調査の時だけ豪華にするといったこともあるようです。食事内容は地方によって異なりますし、食事のたびに何を何グラムなど計測するのも難しいのが実情です。逆に血液検査では、食べて身についた成分を解析するので分析の指標となり、より正確で客観的かつ科学的な調査がしやすいのです。
─調査の結果、どのようなことがわかりましたか。
橋本 血液中のたんぱく質が低いと生存率も低いことがわかりました(図1)。また、血液中のたんぱく質が低い人、コレステロールが低い人、貧血がある人は、介護保険のお世話になる率がそうでない人よりも高いこともわかったそうです。
─コレステロールは低い方が健康に良いのではないでしょうか。
橋本 実際にフォーラムでも同じ質問が出ましたが、これはみなさんそう思われると思います。でも実は、コレステロールは低すぎても問題なのです。栄養に関しては結構誤解があるものです。もちろんコレステロールは高すぎてはいけませんが、体に必要なものなので低すぎてもだめなのです。新開先生のお話は多くの人を調べた結果で、統計学的にもきっちりしたものです。
─そうなると、どのような食事が好ましいのでしょうか。
橋本 一言で説明するのは難しいのですが、まず挙げられるのがいろいろな食品を食べることです。特にたんぱく質である魚や肉はきっちり摂ることです。これらは脂肪も一緒に摂れます。赤身の肉や魚には必要な鉄分も含まれます。逆に朝はコーヒーだけ、昼はパスタやパンだけ、夜も一汁一菜など粗食で良いと思っている人がいます。これは高齢者に限ったことではなく、実は若い人でも粗食は問題です。栄養が悪いと筋力が落ち、特に足の筋肉が細くなります。そうなると転びやすくなりますし、脚力が落ちて外に出るのが億劫になる、出ないからよりお腹も減らず、食欲もなくなり、より低栄養になるという悪循環になってしまいます。実は、速く歩く人は認知症になりにくいという研究結果も出ています。速く歩くには筋肉が必要で、そのためには食べることが必要だということですね。
─一方で、年を取ったらお肉を食べない方がいいという人もいますが。
橋本 高齢になったらお肉を食べてはいけないという科学的根拠はありません。別に牛肉でなくてもいいのです。要は栄養のバランスです。超高齢社会で介護費用も毎年上がり続けていますが、新開先生の研究グループが栄養指導をしたある自治体では、増えるのが当たり前の介護費用が減ったところがあります。高齢になればなるほど筋肉の衰えを防ぐ必要がありますが、それにはまず栄養から。これが大事なのです。リハビリの基本も栄養です。
─お酒とたばこは良くないのでしょうか。
橋本 たばこはやはり良くないようですが、お酒はほどほどであれば健康長寿には良いそうです。
─運動も健康と長寿の大切なポイントだと思いますが、高齢者にはどのような運動が良いのですか。
橋本 中年では太りすぎを防ぐためにジョギングなどの有酸素運動が勧められますが、高齢者に必要なのは筋肉をつける筋トレです。年を取ったら少しふっくらの方が痩せているより良いそうです。また、しっかり体を動かすためには活動的であることが重要です。ですからそのモチベーションとなる社会との関わりも大切にしましょう。
─高齢者はしっかり食べるようにしないといけませんね。
橋本 はい、要はバランス良くしっかり食べることが重要ということです。しかし、肥満で血圧の高い人や糖尿のある人は別で、医師の指導を受けましょう。