2022年
8月号
(実寸タテ10.5㎝ × ヨコ5㎝)

連載エッセイ/喫茶店の書斎から75  「鬼か神か」逸見東洋

カテゴリ:文化人

「喫茶・輪」は一昨年末に看板を下ろしたのだが、店内の書斎は今のところそのままだ。そしてブログもそのまま「喫茶・輪」で続けている。
そのブログにこのほど興味深いコメントが入った。その要約。
《岡山県倉敷市にあります、「きび美ミュージアム」の畑野と申します。ご投稿の『逸見東洋の世界』(岡山文庫)の著者、臼井洋輔が当方の館長でございます。来る6月12日に市内玉島地区の羽黒神社で、逸見東洋が最後に境内でうった神社所蔵の奉納刀のご披露を含め、臼井館長の講演会を開催します。「故逸見憲一様が東洋のひ孫」とのブログを拝見し、逸見様のご遺族をご招待申し上げ、「東洋」最後の刀をご覧いただきたく、「輪」様を通してご連絡できる方法がないかと思いご連絡させていただきました。》
もちろん、連絡をとることにやぶさかではありません。さぞ喜ばれることでしょう。わたしのブログ、これまでにもいろんな方面から問い合わせがあり、けっこう世のお役に立っているのです。
畑野さんが見つけたそのブログの要約。
2021年1月14日のものである。
《昨日、逸見さんの奥様からハガキ。憲一さんが昨年秋、お亡くなりになったと。
コロナ禍の中、また大切な人が静かに逝かれていた。
逸見さんは拙詩集『コーカップの耳』の紹介記事を新聞で見て、本屋で購入し、来店くださった人。20年来のお客様である。
 『逸見東洋の世界』(臼井洋輔著)を戴いたのだが、逸見東洋は憲一さんの曽祖父。明治正宗と称された刀匠だったが、廃刀令が出た後は美術彫刻の世界に進み「鬼か神か」とまで呼ばれる彫刻家になる。テレビ番組「美の巨人」でも特集されたことがあるが、その作品は大英博物館に収蔵されているほどのもの。》

凄い人なのである。
早速わたしは畑野さんに逸見夫人の連絡先をお教えした。すると、館長の臼井洋輔氏より、ご丁重な手紙が届いた。その要約。
《「輪」様のブログを拝見し、故逸見憲一様が逸見東洋の曾孫であると知ることができました。御礼申し上げます。
 私はそれを見て大変興奮いたしました。
 当「きび美ミュージアム」では、来たる六月十二日に倉敷市の羽黒神社で講演会を開催します。
 私はそこで「玉島の繁栄の原点、羽黒神社の役割と、そこで鍛刀した逸見東洋の奉納刀と、吹屋ベンガラからのメッセージ」と題した講演をいたします。またその際、東洋が境内で一夜にしてうった最後の刀を間近でご覧いただけるようにご披露いたします。
 つきましては、今村様に、東洋、最高峰の刀を直にご覧いただきたく、ご招待申し上げたく、ご連絡させていただきました。》

わたしは残念ながらほかに予定があって行けなかったのだが、逸見夫人の知鶴子さんは、娘さんなど四人の親族で出席し、初対面の親戚にも会えたとのこと。盛会だったという。
「感激しました。わたしどもの先祖がそんなに凄い人だとは知りませんでした。行ってみてビックリでした。東洋がうったという神社に伝わる刀も見せて頂きました。感動しました。主人は本ばっかり読んでいる寡黙な人でしたから、わたしたちにちゃんと伝えてくれてなかったんです。わたしも『逸見東洋の世界』は読んでましたし、テレビ番組も見ましたが、それほど凄い人だとは思ってなかったんです」と。
そういえば、わたしが東洋と憲一さんの関係を知ったのも、憲一さん本人からではなく、その知人を通してだった。シャイな人だったのだ。
講演終了後、畑野さんから届いたメールの一部。
《憲一様のご家族は、お家に残る東洋にまつわる御品をわざわざご持参下さり、ご披露してくださいました。また、大学生の来孫様が卒論に「逸見東洋」をご研究なさっておられるとのこと。館長も大変感動し、「こんな偶然があるだろうか」と驚いておりました。
 このような素晴らしいご縁をいただき、つないでくださいましたことに心から感謝し、御礼申し上げます。》

ご遺族につなぐことができて良かった。これもひとえに「きび美ミュージアム」の学芸員、畑野さんのお手柄だ。しかし惜しいことだった。この催しがもう少し早く行われていたなら、憲一さんも大いに喜ばれただろうに。

(実寸タテ10.5㎝ × ヨコ5㎝)

■六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

■今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。

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