2022年
8月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第134回

カテゴリ:医療関係, 神戸

パンデミックと介護について

─コロナ禍では高齢者施設でクラスターが相次ぎましたね。
矢野 結果的に助けられる命が助けられない事態も発生してしまい、ある意味、医療災害ともいえるかもしれません。

─パンデミック下の介護施設では、どんな問題が生じましたか。
矢野 クラスターが発生したある介護施設では、施設内の高齢者に次々と感染するだけではなく、介護スタッフや看護師にも感染が広がりました。その中で、残されたスタッフは自らの感染にもおびえながら必要不可欠な日々の介護を必死に継続していました。また介護施設はもともと日々の生活を目的とする施設であり、医療を行うことが主な目的ではありません。そのため、施設内でクラスター発生に伴って医療的な対応を行う事は十分に想定されていませんでした。ですので、次々と発生する感染者や重症化し呼吸状態が悪くなる入所者の対応に現場は大変混乱をいたしました。

─どうしてこのような事態になってしまったのでしょうか。
矢野 「初期の段階で陽性者の入院・隔離などの十分な対応ができず感染が拡大したこと」「常勤医だけでは十分な医療提供が困難であったこと」「スタッフの感染や人手不足による介護崩壊が生じたこと」などが問題点として考えられます。

─これらの問題の背景や根底には、何があるのでしょうか。
矢野 ①医療崩壊の阻止に優先順位が置かれた可能性、②慢性的な人手不足の問題、③連携不足の3点を考えます。

─医療崩壊の阻止に優先順位が置かれたとはどういうことでしょうか。
矢野 パンデミック時、キャパシティーを超える医療需要の高まりに対してトリアージ、つまり「選別」が実施され、医療崩壊を阻止しつつ、限られた医療資源で最大効果が発揮されるような対応が都道府県、各医療機関でおこなわれました。その結果、高齢者介護などへの配慮がいきわたらなかった可能性があったのではないかと思われます。

─介護業界の人手不足は以前から指摘されていますよね。
矢野 しかもそれに加えて、職員のコロナ感染や濃厚接触者としての隔離対応のため、必要不可欠な介護がおこなえない状況となりました。特に施設型の介護施設では問題が深刻でした。

─連携不足はどのようなところにありましたか。
矢野 医療と介護、都道府県と市町村などです。介護に関わる介護サービス業者・行政・医療機関はお互いアナログな関係でつながっていますが、パンデミックのような状況では迅速で正確な情報共有が難しくなります。また行政内においても「医療行政は都道府県中心」「介護福祉行政は市町村中心」という役割分担が、パンデミック対応における連携に影響を与えた可能性が考えられます。

─このようなコロナ禍の教訓を今後どのように生かすべきなのでしょうか。
矢野 BCPの作成と、医療・介護・行政の連携強化が重要になってくると思います。BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、事業継続計画といわれ、緊急事態に遭遇した際に、損害を最小限にとどめて事業の継続や早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における対応を取り決めた計画のことです。令和3年度の介護報酬改定で、介護事業者にはBCPの作成が義務化されました。

─パンデミック時にはどのような対応が求められますか。
矢野 例えば、感染者が発生すると、入所型施設では感染者対応などのために平時より業務量が増大する一方、通所型施設では介護業務の縮小が行われるため平時より業務量が減少します。そこで、通所型施設から入所型施設へ人材を派遣することで、必要度の高い介護分野に人材を集中させて、人手不足による介護崩壊を防ぐことに繋がります。このような仕組みづくりを平時から考えておくことがBCPとなります。

─どのように連携を強化すべきなのでしょうか。

矢野 医療・介護・行政の連携を強化し、治療が必要な高齢者をいち早く医療につなげることができる体制づくりが重要です。尼崎市では保健所と医師会で連携し、在宅及び高齢者施設等で入院待機するコロナ陽性患者に対して、尼崎市医師会に所属する多くの有志の先生方が保健所の要請に応じて往診をおこなってきました(図1)。コロナ陽性がわかり自宅で不安な思いをしていた本人・家族から感謝された一方、施設医と訪問医の協力体制、医療と介護の給付調整、往診医の診療内容を行政とどう情報共通するかといった課題が浮かび上がりました。

図1)入院待機するコロナ陽性患者への医療提供体制と尼崎市医師会所属医師の往診対応

図2)新型コロナウイルス感染(疑い)者発生時の報告・情報共有先


─普段から情報共有できるようにしておくことが鍵ですね。

矢野 施設内で感染者が発生した場合、情報共有先は多岐にわたります(図2)。ゆえに正確で迅速な情報共有の仕組みが不可欠ですので、介護記録のIT化、業務内容の見える化、自治体などを主体とした情報共有のためのプラットホーム作りなど、平時から情報共有のための環境整備に取り組むことが必要になってくるでしょう。

─医師会の役割も重要です。
矢野 助けを求められれば力を貸したいという医師は多いのですが、一人ではなかなか動きにくいのが現実です。緊急事態においては、医師会が旗振り役となり有志の医師を積極的に集め、必要な場面へ割り振る仕組みをもっと積極的に活用できると良いですね。

兵庫県医師会医政研究委員
やの内科・胃腸クリニック 院長
矢野 雄飛 先生

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