2020年
6月号
6月号
ペストとの共通点について|内田 樹 |新型コロナウイルス禍で思うこと
1月に武漢が都市封鎖されたというニュースを読んだときに、カミュの『ペスト』のことを思い出した。「都市封鎖」という事例をこの小説の中のオラン市以外に知らなかったからである。そして、武漢市内の書店に『ペスト』の翻訳があればいいのにと思った。この小説に深い救いと慰めを見出す人がきっと市民の中にもいたはずだからである。
そう思っているうちに、日本でも緊急事態宣言が発令されて、準・都市封鎖的な状況になってきたので、数年ぶりに『ペスト』を書架から取り出して読んでみた。たいへんに完成度の高い作品だった。私と同じことを考えた人がたくさんいたらしく、『ペスト』は1月末に27万4千部増刷されて、新潮文庫は94刷り、116万部に達したと聞いた。パンデミックになると浮足立つ人もいるが、逆に思索的になる人もいる。
こういう機会だからと、未読であったダニエル・デフォーの『ペスト』(A journal of the Plague year)も取り寄せて読み始めた。これは人を特に思索的にするタイプの書物ではないが、一つ一つのエピソードに腹にずんと応えるような衝撃があって、450頁を一気に読んでしまった。