11月号
特集「選ぶ楽しさ」|ターミナルの 強みを生かして|そごう神戸店
株式会社 そごう・西武
取締役執行役員
神戸店 店長
林 拓二さん
―そごう神戸店に来られて3カ月ということですが、今の印象は?
林 三宮で78年、お客さまにご愛顧いただいている百貨店。かつて日本一といわれた三宮地下街のキーテナントとして賑わっていました。当時の写真や資料を見ると改めて三宮でのそごうの存在の大きさを感じます。一時よりは減少したとはいえ、阪急、阪神、JR含めて一日60万人以上の乗降客がいる駅前立地でコンビニエンス性には優れています。その強みは地下食品売り場に顕著に現れています。
―確かに、地下が賑わっていますが、他の百貨店の地下食品売り場との差別化はどのように?
林 県内の名店さんにご協力いただき、それぞれのジャンルのトップブランドに多く入っていただいています。神戸独特のスイーツは最も得意なジャンルですし、和菓子も充実しています。兵庫県、神戸市などとも連携して「神戸土産」をアピールしています。ある意味、好循環に入っているフロアだと自負しています。
―それが、上の階までつながるといいのですね。
林 確かに…。当店は地下1階からのお客さまの流れが最大です。入店数のほぼ3割を占めています。そこで、2003年から社内的には構造改善、一般的にはリニューアルを進めています。大きな集客拠点となるロフトと紀伊国屋さんに入って頂いて、その流れ本館へもお客さまに入っていただくようにして店内の回遊性を高めようというものです。まだまだうまく機能していないのが現状です。
―林店長としてのお考えは?
林 取引先さまやお客さまのご意見、社内での生の声を聞いているところです。まず、建物が震災の影響を受け、復興後は柱が多くなりショップが正面から見えづらいという弱点があります。特にファッションフロアの導線のあり方が課題になっています。基本導線を動かすのはかなりの資金や労力が必要になりますので、一つひとつに磨きをかけながら、近々総合的に見直していこうと考えています。
―食品売り場のターゲットは自ずと決まってきますが、上の階の主力ターゲットは?
林 いわゆるアラフォー世代です。店舗のターゲットとしてアラフォーを打ち出すことと、上得意さまへのアピールとのバランスをいかに取るかがポイントです。世代別、スタイル別の情報をお客さまからいただき、私たちが編集していこうと智恵を出し始めています。例えば、ファッションフロアは男女の区別なくスタイルで分ける、ワンフロア全部を親子ワールドとして造るなどいろいろな考えがあります。催しものに関しても、いかに情報性を高め単に物売りだけでなく〝事売り〟の要素もプラスする時代だと考えています。
―セブン&アイ・ホールディングスのメリットを生かそうという計画はありますか。
林 グループの一員になったということは「イトーヨーカドーの商品をそごうで買えるの?」というのが皆さんの率直な反応でした。その原点になる活動は既に3年ほど前から始まっています。同じ原材料を使って百貨店商品と、もっと実用的な商品に作り分けることは可能です。例えば、同じカシミアを使っても、糸のより方、色出しの仕方、デザイン性の付け加え方によって棲み分けはできます。また、セブンイレブンのプライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」は、そごうの食品フロアでの拡大展開の計画が進んでいます。消費者は忙しい時間をシェアしながら、よりお得に価値のあるお買い物をしようと、そごうへ、セブンイレブンへ、イトーヨーカドーへと出かけますが、その中で特に注目しているのは、百貨店とコンビニの利用者が重なるケースが多いこと。百貨店はPBのコンビニ性を売ることができ、逆にコンビニエンスストアにとっては百貨店が広告塔になるのではないかと考えています。
ネットという大きな市場の中でも、セブン&アイの商品が世界中どこでも手に入るインフラも整いつつあります。eデパートに百貨店が出品し、セブン&アイがオペレートするインフラを使っています。リアル店舗を運営する百貨店ですが、常にネットというバーチャルな手段もどんどん取り入れていくことが、まさにシナジー効果につながるものです。カード改革も進め、グループワイドでのポイント乗り入れも考えられています。そごうでお買い物したポイントがセブンイレブンで使えるとう時代も近い将来やってきます。セブン&アイ・ホールディングスあげて、日々進化していると言っても過言ではないでしょう。私たちにとっては大きな学びの場であることは間違いないと思っています。
―大阪での百貨店戦争が話題になっていますが、その影響はありますか。
林 確かに一時は、東方面、特に阪神間のお客さまが減少傾向にありましたが、既に回復基調にあります。西方面のお客さまが神戸を飛び越して大阪に行かれるとは考えにくいと思います。ですから大阪の百貨店戦争は私たちにとっては学びの機会だといえるでしょう。
むしろ私が注目しているのは、好調な西宮阪急さんです。非常に良い店づくりをされています。さらに阪急西宮北口を基点とする南北路線のお客さまをうまく集客されています。阪神間のお客さまの減少傾向は大阪の百貨店に起因するものではなく、ライバル視するべきは西宮阪急さんです。私は神戸に来て以来ずっと「大阪百貨店戦争と騒ぐ前に、私たちにはやるべきことがある」と社員にも常に話をしています。百貨店の人間は対百貨店の驚異には敏感ですが、ショッピングモールやテナント店には無頓着になりがちです。セブン&アイに入ったことは、頭の構造を変えていく必要性にも気づく良い機会になったと思っています。
―そごう新館の魅力は?
林 魅力をお話しする前に、私はその課題についてお話ししたいと思います。新館のロフトや紀伊国屋のお客さまと本館のお客さまとの交流を目的としたにもかかわらず、それが果たせていません。神戸進出から8年が経とうとしているロフトの商品について、私たちがデベロッパーとして全くフューチャーできていないと思っています。紀伊国屋がオープンした当時もお客さまには周知されず、そこで本館の各フロアに雑誌を置き、「新館の紀伊国屋にあります」と表示しました。こうしてやっとお客さまに紀伊国屋の存在が浸透しました。ロフトと紀伊国屋の存在が私たちの中で当たり前になってしまっていることに問題があるようです。魅力をまだまだ生かし切れていません。導線、フロア構成の総合的な見直しの中で根本的に考え直していこうと思っています。
―これから年末、新年にかけての企画について教えてください。
林 一般的な企画では、お歳暮、クリスマス、お正月、そして冬のバーゲンへと続きます。今回大きく打ち出したいのは、「ウォーム ライフ」の考えです。神戸では震災があり、今年はそれを思い出させる出来事が3月に起きました。団らん、コミュニケーション、ボランティアスピリットなど「絆」を演出するのが「ウォーム」や「ハート」。そういうものをフューチャーしていきたいと思っています。冬場の商品を当たり前の物として置くのではなく、取り巻く事の演出、こだわりの訳などをきちんと出すことによって、人が居て、暮らしがあって、物があるという形での編集を始めています。「ウォーム ライフ」は2月末ごろまでを目安にしていますが、そのスピリットは今後もずっと持ち続けていくつもりです。
―これからも新しい企画で三宮を盛り上げていただくようによろしくお願いいたします。
インタビュー 本誌・森岡一孝
林 拓二(はやし たくじ)
1976年慶應義塾大学経済学部卒業。1976年㈱西武百貨店入社。2006年㈱ミレニアムリテイリング広報室長。2010年㈱そごう・西武取締役執行役員経営企画部長。2010年9月取締役執行役員。2011年より取締役執行役員、そごう神戸店店長(現)。