2012年
4月号
ラジオ関西プロダクツ業務部長 今林 清志さん(左) サム・プロダクション タイムスリップ研究家 山下 勇さん(右

発信!デザイン都市 われらのラジオデイズ

カテゴリ:文化人, 音楽・舞踏

今月、ラジオ関西が開局60周年を迎えた。同い年で団塊の世代、電リク(電話リクエスト)世代…、多くの共通項を持つ山下さんと今林さん。道は違っても、ずっと音楽とラジオに関わってこられたお二人にお話しいただいた。

―お二人はラジオ世代。どんな思い出をお持ちですか。
山下 私が昭和40年にワタナベプロに入ったころはラジオ全盛期。まだ家庭にテレビがそれほど普及していなくて、タレントは全てラジオから出ました。ザ・ピーナッツさんも然りです。一流タレントはまずラジオに出ないとダメという時代で、ラジオCMのほうがテレビよりギャラが高い時代でしたね。
今林 ちょっと年上のお兄さんたちが聴いていたのがプレスリーですが、私たちはビートルズ世代。そして、サイモン&ガーファンクル、ボブ・ディランと続く時代です。電リクを聞き、そんな曲を、将来はラジオ関西に入りたいなと思いながら、必死でリクエストしていました。後に、運よく入れていただくことになるのですが…。
山下 僕も小学生のころから電リクを聞いていましたよ。リクエストもしました。大ヒット曲は選んでもらえないから、そのB面をリクエストして名前を読んでもらって、曲をかけてもらって、うれしかったですよ。

―さて、ラジオ関西開局60周年、おめでとうございます。記念番組や事業のご予定は。
今林 開局記念日の4月1日に、現在のレギュラー出演陣が集まって、朝10時から4時間の特別番組を予定しています。また、地域の皆さんのお陰で60年周年を迎え、「ラジオ関西はこれからも永遠です」というメッセージを込めて懐かしい洋楽を集めた5枚組記念音楽CD「ナウ・アンド・フォーエバー」を制作、発売しました。

―山下さんは昨年、大阪・新地の“昭和歌謡スナック”「サウンド・イン・サム」に幕を下ろしたそうですが、残念ですね。
山下 35年以上続けてきましたが、昨年閉店しました。僕はバンドマンに憧れて、水原弘さんの付き人から入りましたので、音楽はプロがギャラを貰ってお客さんに聴かせるものだと思っていました。ところが、カラオケができどんどん進化してきて、それには馴染めない人も出てきていました。お客さんの中心である団塊の世代がリタイアして北新地まで出て来なくなり、その上、再開発が進む大阪キタですから賃料は上がり、継続が難しくなり閉店に至りました。かつては和田アキ子さんや沢田研二さんなど多くの芸能人の皆さんにも来ていただいてました。

―なかなかユニークなお店だったと聞きます。
山下 はい…、約43万曲の音源コレクションそろえていましたからね。世に出ていない曲、放送自粛されてステージでしか聴けなかった曲なども含めてです。今は自宅で保管しています。

―元々は何故、水原弘さんの付き人に?
山下 中学生のころ、難波の大劇(大阪劇場)で水原弘さんのショーを見ました。水原さんは、楽器は弾きませんからマラカスを持って歌います。バックでバンドが演奏するのですが、そこからGS(グループサウンズ)「ザ・スウィング・ウェスト」が誕生します。僕は「エエなあ」と思うようになり、何度か通ううちに水原さんから「なんでこの世界に憧れているのか?」と聞かれ、「好きやからです」と答えました。ここで、「金が儲かりそうやから」と答えていたらアウトだったでしょうね。この世界で当たるのは何万人に一人ですからね。そして東京でスクールメイツに入ったものの、僕は楽器を習ったことはないですから、ドラムから始め、GS「ヴァンビーズ」でデビューしました。初舞台はナンバ一番でした。
今林 そのころの私は、規律の厳しい府立高校の生徒でしたから当時は難波に行くなどとてもできません。でも実は、こっそり難波駅で降りて「インディアン」でカレーを食べて帰って来ていました。「ここが大劇かあ」と何度も通り過ぎましたが、ステージを観るなどはなかったですね。音楽は電リク一本やりでした。

―その後、山下さんは何故マネージャーに?
山下 スクールメイツのリーダーに言われてなんですが、同級生の「じゅんとネネ」のマネージャーになりました。
 以後、事情があり、所属していた平尾プロが休業し、退職金代わりに北新地の店をやれと言われ、そんな気は全くなかったんですが、「サウンド・イン・サム」を始めることになりました。

―その後、今林さんは、ご自分がラジオ関西で電リクを担当することになるのですね。
今林 昭和48年に入社して担当することになるのですが、とにかくビートルズが大好きで、電リクで1曲目とラスト曲にビートルズをかけて、先輩から大ひんしゅくを買ったことを覚えています。

―当時、電リクファンはたくさんいましたね。
今林 凄かったですね。その結果として、アナログ・レコード10万4800枚、そのうちジャズが9千枚の貴重な音楽資産が残りました。ハーバーランドの本社と西区の神戸新聞社製作センターの倉庫に大切に保管しています。保管するだけではもったいないので、レコードだけをかけるコンサートを2カ月に1回程度、松方ホールのホワイエで開催しています。私よりちょっと上の世代の方には、とても喜んでいただいています。ライムライトや白い恋人たち…、映画音楽をかけると涙ぐまれる方もいらっしゃいます。もちろんスクラッチ・ノイズは入りますが、レコードの溝の間には、音だけでなく、一人一人の思い出が詰まっているんですね。

―さて、ネット普及で既存の媒体離れが起きている昨今、これからのラジオ関西はどういう切り口で進んでいかれますか。
今林 今や音楽だけならデータで取り込める時代です。けれどラジオ関西には、音楽だけではなく、パーソナリティーの暖かい生の声や地域のきめ細かい情報が、たっぷり詰まっています。「安心安全ラジオ」としてさらに地域密着メディアになると思います。
 音楽でいえば神戸はジャズだけでなく、「洋楽の街」だとおもいます。重厚なイメージもありますが、実は神戸人はノリが軽い。自分がカッコいいと思わないことをわざわざ否定はしないが、「あっ、そう。お好きに勝手にどうぞ」だけ。こんな街で培われてきた60年です。還暦を迎えて、「ラジ関」らしい原点に戻りたいと考えています。決して〝中高年のためだけの放送〟ではないんです。今の若い人たちも、オールドロックでも、クラシックでも、ジャンルなど関係なく〝いい音楽〟なら聴きます。ラジオ関西はコンテンツ力を生かし、独自の路線を貫けばいいと思っています。

―山下さんのこれからは?
山下 僕は大阪で生まれ育ち、大阪が好きです。大阪万博で見慣れない民族衣装を着た外国人の傍に行って写真を撮ったのは、外国人に慣れている神戸人ではなく、大阪人です。一番たくさん恥かいたのも大阪人です。
今林 神戸人にはできませんね(笑)。
山下 これからも、何でもアリな大阪の特徴を生かした仕事、そして僕が好きなラジオの仕事をしていきたいと思っています。

―山下さんもコレクションをたくさん持っておられるので、お二人で何かできそうですね。
今林 音楽は、それを聞いた時代の自分に、一瞬でタイムスリップできますからね。
山下 思い出が音楽にのってスッと入ってきます。サウンド・イン・サムの常連だった阿久悠さんは、「音を楽しむと書いて音楽。だから難しく考えることはない」というのが持論でしたね。

―お二人の共通項「音楽」を通してこれからも是非、皆を楽しませてください。ありがとうございました。

ラジオ関西プロダクツ業務部長 今林 清志さん(左) サム・プロダクション タイムスリップ研究家 山下 勇さん(右

開局60周年を迎えたラジオ関西本社ビル

今林 清志(いまばやし きよし)

1949(昭和24)年生まれ。1973年ラジオ関西入社。報道制作部、東京支社編成、営業部、事業部など番組制作・編成部門を中心に過ごす。2004年日本民間放送連盟「ラジオ放送活動部門」近畿地区最優秀受章。2007年日本民間放送連盟賞第3回日本放送文化大賞グランプリ候補。2008年、ラジオ関西編成局長を最後に、現在関連会社ラジオ関西プロダクツ業務部長。リスナーからのリクエストをもとにした懐かしい洋楽5枚組コンピレーションアルバム制作。

山下 勇(やました いさむ)

1949(昭和24)年大阪生まれ。1965年水原弘に弟子入り。1966年渡辺プロのスクールメイツ(2期生)となる。2期生の関西出身5名でGSの「ヴァンヴィーズ」結成。「ナンバ一番」(大阪)で初ステージ。1967年「クッキーズ」(後のじゅん&ネネ)のマネージャーとなる。1977年大阪・北新地で「サウンド・イン・サム」開店。2011年「サウンド・イン・サム」閉店。新たなステージへと向かう。

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