3月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 55
医療費削減が主目的の医療連携政策から市民のための地域医療連携総合システムへ
─地域医療連携について教えてください。
槇村 医療連携については以前から医師会主導のさまざまな対応をしてきましたが、いま行政が推進する「地域医療連携」では、平成18年の第5次医療法改正で「全国医療費適正化計画」が制定され、従来の〝病院完結型医療〟から地域の病院と診療所が連携して治療を担う〝地域完結型医療〟への移行を掲げ、病院の療養病床の削減、入院期間の短縮、医療機関の機能分化と連携の強化、在宅医療・地域ケアの推進などが義務付けられました。
これは「医療費適正化」の名が示すとおり超高齢化社会のもとで増大する医療費の削減を目的としていますから、医学的・科学的な根拠はありません。しかし、義務に違背すれば診療報酬が得られないため、ベッド数削減や入院期間短縮を求められた病院は、止むなく患者やその家族に短期間での退院や転院を求め、それが原因で問題もおきています。
─地域医療連携の推進におけるメリットとデメリットとは。
槇村 医療機関と患者双方にとってメリットが大きいとはいえません。あえて挙げるならば、入院加療を行った患者さんの全てが退院後に病院の外来に通院すれば外来が溢れるし、患者さんも日常の通院には近くの診療所の方が好都合なので、病院と診療所の連携は患者さんにとっても有益ですが、これは義務化される以前から行われてきたことです。
一方で患者さんが往診や介護を欠かせない病態なら、むしろ家族の心身の負担や医療費の自己負担分が増大する場合もあり得ます。また、大都市圏で医療機能の特化に成功し「地域支援病院」の承認を得た病院は割増された報酬が得られ多くの若い医師も集まりますが、地方では医師が不足し、現実に病院・診療所の閉鎖がおこっていますので、地方の患者さんにとっては特にデメリットが大きくなります。さらに、連携が順調に進捗していても、病院主治医には往々にして転勤・退職があり、時に信頼関係が崩れる場合もあります。一方で、病院勤務医の多忙・疲弊を容認しながら「地域支援診療所」医師(殆んどは一人)には24時間365日というおよそ非現実的な対応すら求められています。
療養病床の削減や入院期間の短縮はいわゆる「社会的入院」を締め出し、医療費削減の企図は成功したかもしれませんが、重篤な病態の独居老人を在宅に戻して往診や介護など「自助」「共助」努力を求めるのは「公助」の逃避と言うべきかもしれません。
─かかりつけ医の役割はどうあるべきでしょうか。
槇村 在宅での医療を担う医師が決まらなければ病院と診療所の連携が成り立たないので、厚労省は〝かかりつけ医〟に〝在宅主治医〟の職務を割り付け、さらに〝かかりつけ医〟を〝総合診療医〟などと称し、患者さんの受診先を振分けるコーディネータ役を務めさせたいようです。しかし神戸市医師会では〝かかりつけ医〟を決めるのは患者さんの自由意思であり、診療科の如何に拘わらず「何でも気軽に相談でき、信頼できる医師」こそが〝かかりつけ医〟と考えています。したがって、〝かかりつけ医〟と〝在宅主治医〟は必ずしも一致するとは限らなくなります。
─神戸市医師会の取り組みを教えてください。
槇村 現在各地で試験運用されている地域連携に関わるシステムの多くは、診療所など地域の医療機関がインターネットを介し、電子化された病院のカルテや検査成績を覗き込みに行く形態(「どこでもマイ病院」構想に準拠)を採っています。
これに対し神戸市医師会では、第5次医療法改正が公布される以前から地域医療連携の重要性を認識し病診連携の合理化を目的として、会員診療所の所在や医療機関機能情報などをデータベース化した「システム『逆紹介』」を開発し、平成17年2月から運用しています。これは、入院による治療から在宅医療へ移行(すなわち早期退院)することが決まったが既存の在宅主治医を持たない患者さんに、病院の地域連携担当者の協力を得て適切な診療所等のリストを示し、患者さんや家族の方が自ら受診先を選択・決定するためのIT化されたシステムです。この機能を継承・拡張して各疾患のクリティカルパス(連携手順書様式)を追加した「医師会主導型『地域医療連携総合システム』」を開発、すでに昨年6月から脳卒中に関する連携を対象に運用を開始しており、順次「がん」「糖尿病」「心筋梗塞」などに拡大していく予定です。
槇村 博之 先生
神戸市医師会副会長
槙村医院院長