10月号
縁の下の力持ち 第16回 神戸大学医学部附属病院 親と子の心療部
子どもの体と心に寄り添い、将来の希望へとつなげる
体がつらくて心が弱ったり、発達に心配があったり…。病気の治療をする小児科医たちが、そんな子どもとその親の心に寄り添い、将来の希望へとつなげているのが「親と子の心療部」です。
―親と子の心療部とは。
体に不調を抱えた子どもさんは精神的にもつらくなります。小児科主体で、体とともに心にも寄り添うケアをしていこうと、2003年に開設されました。さらに、親御さんにかかるストレスまで含めてケアしていこうというものです。小児科医の他に、臨床心理士が担当しています。
―どんな病気を抱えた子どもさんですか。
例えば、脳性まひや白血病、筋ジストロフィーなど、長く病気と付き合っていかなくてはならない慢性疾患の患者さんとその親御さんです。また、発達障害の相談を受けるケースが多く、そのフォローが開設当時から大きな目的の一つになっています。
―発達障害とは。どういうフォローを?
発達に関して本人や親御さんをはじめ周りの人が著しく困っていることがある状態を発達障害といい、ADHD(注意欠陥・多動性障害)や自閉症スペクトラム障害などがあります。社会で認知されるまでは「躾ができていないから」などと誤解され、悩む親御さんがたくさんおられました。そこできちんと診断をして、その子に合ったサポートが受けられるようにアドバイスする必要があります。
最終的には、本人が楽しく社会生活を送り、親御さんも子どもさんとの生活を楽しむことができるようになるのが理想です。
―発達障害の診断とは。
検査ではっきりと異常が見つかるというものではないので一般の小児科での診断はつけにくく「発達障害かもしれない」という不安な時間を過ごしている親御さんが多いのが現状です。そこで大学病院の役割は次の一歩として、「今の時点では発達障害とはいえません」もしくは「発達障害です」という診断を伝えた上で今後の希望につなげていくことだと思っています。
―来院者にどんな対応をし、診断をするのですか。
一人ひとりに十分な時間をかけ、困っていることや行動の特徴などを見極めます。臨床心理士による心理検査も大いに判断の参考にします。
例えば、自閉症スペクトラム障害は「コミュニケーションの障害」と「極端なこだわり」という二つのキーワードを軸に診断されますが、検査で明確に診断できるものではなく、医師によって判断が分かれる場合もあります。そこで、他の小児神経学の先生方や臨床心理士とチームを組み相談して下した診断をお伝えします。ただし、未就学児でADHDの診断をすることはほとんどありません。3歳児、4歳児はみんな〝多動〟ですから(笑)。その傾向を持ちながらだんだん抑える気持ちが芽生えてきて、社会に適応できるケースも多々あります。
―診断後はどういう治療やアドバイスを?
大学病院は急性期や難病の治療をするところですから、長期間の療育を担うわけにはいきません。そこで周辺の通所施設や神戸市の三つの療育センターと連携しています。どこでどういったフォローを受けるのがその子にとって一番良いのかアドバイスし、ご紹介する施設に通って専門家の下、トレーニングを受けていただくことになります。
―何かの病気や環境が原因というケースもあるのですか。
検査で異常が見つかり治療できる場合もあります。そういうケースはごく一部ですが、治療できうる病気を見逃さないことは大学病院の大切な役割だと思います。
残念ながら、多くの方にとっては、発達障害の特効薬はありませんので、うまく付き合いながら環境調整することは大切です。転校や移住など環境をかえることで元気になることもありますが、どんな環境が適しているかは人それぞれで一概にはいえません。
私たちの言葉は患者さんにとって非常に重いものだと自覚していますので、医師として下す判断以外の部分では“近所のおじさんからのアドバイスだと思って聞いてください”と前置きしてお話しています。
―子どもの将来がかかった判断を下す大変なお仕事ですね。
私は人と話をする仕事がしたいと医師を志し、中でも子どもの将来に何か良い影響を与えられそうな小児科を選びました。たくさんの人と関わり、子どもが楽しく過ごせるよう手助けできている今、私自身、とても幸せだと思っています。