2019年
10月号

くらしの中のアート|美術館が 生活の一部になれば、 人生がもっと豊かになる

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 神戸

美術館が
生活の一部になれば、
人生がもっと豊かになる

兵庫県立美術館 館長 蓑 豊 さん

アートを生活の一部として楽しめたら、人生がもっと豊かになる。そんな思いを持って、大人も子どもも、誰もが親しめる美術館づくりにチャレンジしてこられた兵庫県立美術館館長の蓑豊さん。就任から10年の節目の年、美術館のことあれこれお話しいただいた。

美術館がヒントを与え、
子ども自身が答えを出す

―どんな10年でしたか。

日本人のほとんどは、大きな企画展があるときだけ美術館へ行きます。ここ「兵庫県立美術館」でも、常設展には誰も来てくれなくて、閑古鳥。これでは駄目です。食事をするのと同じように、美術館に行くことを生活の一部にしたい、時間があったらぶらっと気軽に来てもらえる美術館にしたい。そんな思いで10年、いろいろチャレンジしてきました。

―アメリカでの経験が考え方の根底にあるのですか。

美術館へ家族そろって出かけるのはもちろんですが、学校から行きますからね。日本では美術の校外学習としてしか行きませんが、アメリカでは歴史の授業の一環として、例えばアフリカやアジアの美術、古代ローマの美術など、物を見ながらそれぞれの国の歴史や文化を勉強します。日本のように教えられることを丸暗記するより、ずっと分かりやすい。これが「education」、つまりヒントを与えるということ。美術館はヒントを与える場所であり、自分なりの答えを導き出すのは子どもたち自身です。日本でいう「教育」は一つの決まった答えを教えることをいいます。そもそも出発点が違うことが問題です。

©JIRO FUJIWARA

―子どものころから美術館に親しめたらいいですね。

自分の子どもを美術館に連れて行く親の100%が、子どものころに親に連れられて美術館へ行っています。子どものころに受けた感動は一生忘れません。その感動を自分の子どもにもさせてあげたいと思うからです。でも、ここへ来る子どもたちの90%は美術館へ初めて来たといいます。喋ってはいけない、走ってはいけない、堅苦しいことばかり言われたら、子どもは嫌になっちゃいますよね。楽しくなるような仕掛けが必要です。
「金沢21世紀美術館」では市内全小学校の生徒を招待し、楽しい解説書を作り「もう1回券」を付けたら、それを持ってたくさんの子どもたちがお父さんやお母さんを誘って来てくれました。残念ながら〝兵庫五国〟は広すぎて、あそこまで大規模にはできません。子どもに来てもらえるようにどうすればいいのか、試行錯誤は続いています。

金沢21世紀美術館では、市内の全小学生を招待し、ガイドブックに「もう1回券」を付けた

まずは一人でも多くの人に知ってもらって、来てもらう

―話題になった特別展示がいろいろあり、来場者数も順調に伸びているようですね。

お陰さまで昨年は約90万人の来場者がありました。安藤忠雄ギャラリーも造っていただき、今年5月にオープンしました。次は100万人を目指しています。最も来場者数が多かったのは開館記念「ゴッホ展」の35万人。この記録は未だに破られていませんが、2020年1月25日から再度「ゴッホ展」を開催しますので、さて記録を破れるか、どうでしょうか。

Ando Gallery and circular terrace

Ando Gallery

―企画を立てるのは蓑館長?学芸員?それとも…。

来場者数が伸びる展示は広報も必要ですし、どうしても新聞社さんの企画がほとんどというのが現状です。私から「これをやりなさい」ということはないですよ。学芸員たちもそれぞれに自分の研究を題材にした展示をやりたいところでしょうが、まずはお客さんに来てもらえる企画でなくてはね。「だまし絵」「だまし絵Ⅱ」や「怖い絵展」は学芸員が考えたのですが、大盛況でした。SNSでの拡散がかなり手助けしてくれたようです。やはり大切なのは〝人〟ですね。今月12日から開催の「富野由悠季の世界」も好きな学芸員がいて、「やります!」とすぐに手を挙げてくれました(笑)。

―これからのチャレンジは。

ここに兵庫県立美術館という素晴らしい施設があると世界に発信していくこと。それにはロケーションが大切です。街中にある美術館ではないというハンディはありますが、王子公園、JR灘駅、阪神岩屋駅から一本道です。この「ミュージアムロード」をもっと分かりやすくしたいと、あちらこちらに掛け合って苦労しましたが、国道2号線から一目瞭然、阪神高速の壁に大きなロゴを描いてもらえることになり、今月実現します。どれだけ効果があるか楽しみです。

―次々とアイデアが浮かび、すぐに動き出すのですね。

いつも、何かやっていなくては気が済まないんです。突っ走って、後ろを振り返ったら誰もいない(笑)。

―これからも〝世界の県美〟のために突っ走ってください。
本日はありがとうございました。

©JIRO FUJIWARA

蓑 豊(みの ゆたか)

1977年、米国ハーバード大学文学博士号取得。1988年、シカゴ美術館東洋部長。1996年、大阪市立美術館館長。2004年、金沢21世紀美術館館長。2005年、金沢市助役。2007年、サザビーズ北米本社副会長。2007年、大阪市立美術館名誉館長。2007年、金沢21世紀美術館特任館長。2010年、兵庫県立美術館館長

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