10月号
モダン寺は花隈のランドマーク|花隈には長い歴史と新しい発見がたくさんある
神戸っ子たちに親しまれてきた「モダン寺」とその界隈を「もっと元気なまちに!」と地域の人たちが立ち上がった。いずれも花隈で長い歴史をもつ隈病院と桜商会から、隈理事長と石原社長にお越しいただき、モダン寺副輪番の長尾さんを交えて、花隈の現在と未来について語り合っていただいた。
〝モダンなお寺〟として
親しまれてきた「本願寺神戸別院」
―「モダン寺」の歴史は。
長尾 1639年、本願寺第13代良如宗主より寺号「善福寺」を頂いたのが浄土真宗のお寺としての始まりです。その後、現在の地に移転し、1908年、本山直属の別院格が付きますが、17年に火事により焼失。翌年から再建計画が動き始め、30年、鉄筋造り、我が国初のインド仏教様式のお寺として竣工しました。60年、正式に「本願寺神戸別院」と命名され、神戸の人たちにはハイカラな「モダン寺」として親しまれてきました。
―同じく長い歴史を持つ隈病院ですが、花隈には何かゆかりがあるのですか。
隈 〝隈〟つながりはないです(笑)。私の祖父・隈鎮雄が大分県の病院から独立するにあたり、物件を見つけたのが今の隈病院の場所で、当初は木造造りの建物でしたが、1986年に鉄筋造りになり、2005年、大規模改修が完了し現在に至っています。
―今や全国から甲状腺疾患の患者さんが隈病院へ来ますが、開院当時から専門病院だったのですか。
隈 祖父はもともと甲状腺の研究をしていたようで、甲状腺の手術が得意な外科医師として、1932年の開業時からバセドウ病や甲状腺がんの手術を精力的に行なっていたようです。1966年、父・寛二が院長に就任して専門病院としました。思い切った決断だったと思います。
―桜商会も、同じく花隈で長い歴史がありますね。
石原 元兵庫県警本部長が退官後、1947年に立ち上げたのが桜商会です。東京から本部長に付いてきたのが、内務省に勤めていた私の父です。桜商会2代目社長だった父の跡を継いで私が5代目です。子どものころは親父の会社が何をやっているのか分からなくて(笑)。後に、社会インフラの図面の青写真を焼いていたんだと知りました。
インド仏教様式を踏襲し
震災の年の9月に竣工
隈 現在の「モダン寺」は震災の年に竣工していますので、被害を受け建て直しに至ったと思っておられる方も多いのではないでしょうか。
長尾 そうでしょうね。でも実は、老朽化が進んでいましたので平成に入って建て替え計画がスタートし、1995年9月に竣工しました。本願寺第22代大谷光瑞ご門主の指導で設計された、元の建物の造りを踏襲しています。インドやミャンマーに行き仏教を研究した破天荒な方で、本堂はお釈迦様のご旧跡を模し、石の柱はインドの洞窟寺院をイメージしているといわれています。建て替えを前に仏像・仏具等は京都へ一時移されていましたので震災の難を逃れ、伝統仏教では許されないだろう本堂の豪華な金箔は当時のまま、五つの尖塔や正面左右のブロンズ像、ステンドグラスの飾り窓など、外観デザインも受け継がれています。
隈 神戸の人なら誰でも知っているというほど知名度は高かったと記憶しているのですが、最近はあまりクローズアップされませんね。80年も昔に造られた方の思いがきっちり伝わっているということも、あまり語られていないように思います。そこで、総代の石原さんが立ち上がった?
石原 声をかけていただき総代を務めることになりましたが、「東の築地本願寺には観光客がたくさん来て感動しているのに、何でここへは来てくれへんのかな?」と。建造物の珍しさやいろいろな所で発見できるミステリーなど、モダン寺には〝面白い〟がいっぱいあるんですよ。
長尾 昭和の初め以来、本堂に椅子が並んでいます。外国人の多い神戸で誰もが訪れることができる場所にしようという考えがおありだったのでしょうね。本堂に上がって仏像や仏具、お軸など代々受け継がれてきた浄土真宗の貴重な法物を見ていただければ感動があると思うのですが、3階にありますので入りにくいのでしょうか。1階正面のホールももっと利用していただけるといいのですが…。
石原 お葬式文化がなくなってきましたからね。総代としては、多角的に利用できるホールや納骨堂をもっとPRしたいですね。
お寺を中心に人が集まる。
それが本来のまちのあり方
―花隈モダンタウン協議会もモダン寺のPRに一役買っていますね。
石原 阪急花隈駅を利用してモダン寺や隈病院に行く人が多いにもかかわらず、駅にエレベーターがなくて、特にお年寄りはとても大変そう。そこで「協力してエレベーター設置を実現しよう!」と呼びかけたのが話の発端だったのですが、それに呼応するかのように工事が始まり…。
隈 花隈が元気になり住人やお店が増えた結果としての象徴が駅のエレベーター…のはずが、石原さんの熱意が伝わったのかあっさり実現(笑)。
石原 元々、阪急さんがそういう計画をおもちだったのでしょうけど(笑)。いずれにしても目的が宙に浮いてしまい、これを機に親睦を深め、周りの人やお店も巻き込んで花隈に横のつながりを作ろうと始めたのが「花隈モダンタウンフェスティバル」です。親鸞聖人のお誕生日と報恩講法要も兼ねて、モダン寺さんのホールや前庭を提供いただき、5月の降誕会に開催しています。
長尾 本来、お寺は近隣の人たちが集う場所だったはずです。こんなふうに年に1回集まる機会を作っていただき、ありがたいと思っています。
伝統と新しい魅力が
混在するまち花隈
隈 意外とこの界隈には美味しいお店も多いんですよ。古くからあるお店だけでなく、最近オープンしたお店もあり、独立する若い職人さんたちがテナント料の高い中心部から離れてチャレンジしているのだと思います。知る人ぞ知る、既に予約一月待ちという新店もあります。若いアーティストさんたちも花隈で新しいことを始めているようです。エレベーターもできることですし(笑)、神戸三宮駅からたった一駅乗るだけ!花隈の魅力を発見しに来てください。
石原 そうですね。美味しいお店や観光していただける場所も周りにたくさんあります。花隈モダンタウン協議会で、まち歩きツアーを企画するのもいいかな、住む人にとっての利便性も考えれば元町辺りからこの界隈の観光名所を回り花隈駅まで行く低料金のコミュニティーバスを走らせるのもいいかな、思い描いている次の目標実現に向け動き始めています。
長尾 宗派は気にせず、どんなことでも気兼ねなく相談できるお寺。これからのモダン寺と地域との関わり方だと思っています。もちろん見るだけ、写真を撮るだけ、それでも構わないんです。
石原 インスタ映えすると思いますよ。写真を撮ったら、ぜひアップしてください!
隈 「モダン寺の周りは明るくて楽しいね」と言ってもらえるランドマークとしての役割を担っていけたらいいですね。
―楽しいことがいろいろありそうですね。モダン寺と花隈のこれからに期待しています。
浄土真宗本願寺派
本願寺神戸別院副輪番
長尾 真 さん
医療法人神甲会
隈病院 理事長
隈 夏樹 さん
浄土真宗本願寺派
本願寺神戸別院門徒総代
株式会社桜商会 代表取締役社長
石原 守 さん
本願寺神戸別院
神戸市中央区下山手通8-1-1
TEL.078-341-5949
https://hongwanji-kobe.jp/