10月号
くらしの中のアート|横尾忠則 自我自損展 ~エゴに固執すると損をする~
横尾忠則(ゲスト・キュレータ)へのQ&A
―展覧会のコンセプトを教えてください
コンセプトはない、というコンセプトです。
―出品作品を選んだ基準はなんですか?
それは気分です。気分によって選びました。別の日に選べばまた全く違う作品を選んだと思います。私にとって気分や生理は最も大事なことです。
―展示(ディスプレイ)の見どころを教えてください
私の場合、展示に関わる作業は全て学芸員まかせです。なぜなら、それが学芸員の批評だからです。私は学芸員に批評されることを愉しんでいます。批評は必ずしも評論するだけでなく、展示に学芸員の批評が表れるものです。
―その他、今回の展覧会の見どころがあれば教えてください
私は自作を説明することは好みません。従って見どころは見る側の問題で、私作者の問題ではありません。
―あなたにとって、展覧会のキュレーションとはどういうものですか?
キュレーションは一種の演劇的行為のような気がします。キュレーターはその時演出家になります。ですからキュレーションは物語を語ることかも知れません。今回は物語のない物語を私のキュレーションで行えないかと思いました。私は演出家であると同時に鑑賞者でもあります。私のキュレーションは美術館のキュレーターを私が指名することだったのです。人のふんどしで相撲を取ってみたいと考えました。ですから、相撲の取り方には口出しはしないつもりです。
―あなたにとって、展覧会とはどういうものですか?
私のパンドラの函のふたを開けることです。
―機会があれば、またキュレーションをしてみたいですか?
その時にならないとわかりません。
―あなたにとって、「横尾忠則現代美術館」とはどういう存在ですか?
母の子宮であり墓場です。作品は生と死の錬金術です。
―最後に、来場者へのメッセージをお願いします
胸襟を開いて作品に接し、作品と対話して下さい。
「横尾忠則 自我自損展」カタログより転載
自我自損展 について
横尾忠則現代美術館 館長補佐兼学芸課長
山本 淳夫
横尾忠則現代美術館における、横尾忠則自身のキュレーションによる展覧会がついに実現しました。キュレーションとは、あまたある美術作品のなかから独自の視点で取捨選択し、展覧会という新たな価値を生み出すことです。展覧会を活かすも殺すも、キュレーターの腕次第、といっても過言ではありません。
ところが、実際には横尾さんの作品選びは拍子抜けするくらい気軽かつ直観的で、ものの30分くらいであっという間に済んでしまいました。さらに展覧会タイトルも、当初予定していた「自画自賛展」から、「自我自損展」に変更となりました。横尾さんがやろうとしているのは、いわば「アンチ・キュレーション」なのではないでしょうか。展覧会にはキュレーターの自我や主張が反映されるもの、という先入観を覆すような実験的なアプローチは、横尾さんでなければできないことだといえるでしょう。
また今回、横尾さんは昔の自作に大胆に加筆した、まさに「自画」を「自損」した新作3点を発表します。「自我」からいかに自由になるかということは、横尾さんが長年テーマとしている一種のライフワークのようなものです。「自我」をめぐる不可能への挑戦とも思える横尾さんの壮大な実験、あるいは冒険は、果たしてどのような展覧会として結実するのでしょうか。
横尾忠則現代美術館(兵庫県立美術館王子分館)
神戸市灘区原田通3-8-30
TEL.078-855-5607
10:00~18:00/展覧会開催中の金・土曜日は~20:00
月曜日休館(祝日、振替休日の場合は翌日)、
年末年始、メンテナンス休館(不定期)