2019年
10月号
10月号
兵庫県のANDO建築探訪 ⑩ 【番外編】
IPU環太平洋大学 キャンパス計画 岡山県岡山市 2009年完成
大阪の下町育ちで、勉強そっちのけの悪ガキのまま、中学に上がりましたが、二年生で思いがけず“勉強”に向き合う機会が訪れました。数学の先生が、毎朝始業前に行う特別課外授業、その“選抜”クラスに入れられたのです。育ての親の祖母が商売人だったせいか、数字に強く、暗算は得意だったから、その辺りが見込まれたのかもしれません。熱心な先生で、気を抜くとチョークやスリッパが飛んでくる。よそ見などしていようものなら往復ビンタ。とんだ“暴力教師”でしたが、その緊張感は“特別”授業の名に相応しく、皆、真剣でした。「一つ一つ理由を明らかにしながら、答えへと近づいていく。数学っておもしろいだろう」熱を帯びた声が今も心に残っています。体を張った授業で、勉強嫌いの悪ガキの目をも開かせてくれた、教師とはやはり偉大な職業です。
創志学園の大橋博先生とは、故貝原俊民前兵庫県知事の紹介で知り合いました。神戸の小規模な学習塾からスタートして、一代で幼児教育から大学までを手掛けるグループを築かれた、優れた経営者ですが、その根本は「教育こそが未来へ向かう原動力であり、故にその現場は、自由かつ柔軟に創られねばならない」という実にシンプルな教育への信頼と情熱でした。その集大成ともいうべき、IPU環太平洋大学のキャンパス計画を手伝っています。教育と体育の融合をテーマとする学校で「施設ではない、環境をつくってほしい」という大橋先生の言葉通り、廊下や階段といった部分をも含めて“教室”となるよう設計しています。最初につくった武道館は、建物全体がトレーニング場です。訪ねるといつも、気持ちの良い挨拶で生徒さんが迎えてくれます。“人間”が育っていく、その現場の空気に私も刺激を受けています。
■IPU環太平洋大学
岡山県岡山市東区瀬戸町
観音寺721