8月号
ベトナムに 上下水道を
【インタビュー】 神戸市副市長 小柴善博さん
神戸市では、平成22年11月に策定した基本方針「水・インフラ整備に関する国際貢献の新たな取り組み」に基づき、㈱神鋼環境ソリューションが実施しているベトナム・キエンザン省・フーコック島における上下水道の事業化に向けた取り組みを支援している。神戸経済と市内の企業を元気にする起爆剤の一つになりそうなこの取り組み。どこまで進んでいるのだろうか。小柴副市長に伺った。
―先ず海外での水・インフラ整備支援に取り組むに至った経緯を教えて下さい。
小柴 神戸市は上下水道を運営する高度な技術・ノウハウを持っており、これまでもJICAの国際技術協力事業などを通じて諸外国へ情報発信してきた経緯があります。そして、政府が平成22年6月に閣議決定した「新成長戦略」では、官民連携によるパッケージ型インフラ海外展開の推進が示されました。
神戸市としても、従来から国際貢献には非常に関心を持っておりましたので、この基本方針を打ち出し、官民連携による水・インフラ整備の国際展開の第一歩を踏み出すことを決めました。水・インフラ分野においてこの取り組みを進めることで、地元企業の海外展開がさらに促進されることによる「神戸経済の活性化」が図れ、また〝世界の中での神戸〟のアピールにもつながり、さらには、本市職員の「技術・技能の継承」にもつながることだと考え、積極的に官民一体となって取り組みを進めようとしています。
―第一号としてベトナムでの取り組みが始まりましたね。市民にとっても嬉しいことです。
小柴 ありがとうございます。平成22年12月13日にベトナムとは国レベルでも技術協力の覚書が交わされ、国土交通省からは政策アドバイザーも派遣されています。また、ベトナム政府の方針として、フーコック島をリゾート地として売り出そうとしており、今年の12月には国際空港も完成する予定と聞いています。私も一度この島を訪ねました。ちょうどインドネシアのバリ島のような白い砂浜と青い海が広がる非常に風光明媚な島です。これからリゾート地として多くの観光客に来てもらうとなると、商業施設や集客施設の整備はもとより、それらに併せた上質な水の提供と快適な水環境が必須となります。そのための水・インフラ整備を神戸市と㈱神鋼環境ソリューションが協力して進めようということになりました。相手国が描くグランドデザインと、こちらの提案をすり合わせしながら、現在、現地調査をすすめているところです。今秋ごろには報告がまとまる予定です。
―㈱神鋼環境ソリューションを始め、基本的には神戸市内の企業と相互協力して進めるのですか。
小柴 地元経済の活性化が目的の一つですから、相互協力する企業はやはり地元優先と考えています。また神戸には、中小企業を含め、対応できる高い技術・技能を持った企業があります。まず最初に㈱神鋼環境ソリューションさんと協定を結びました。これまで、下水汚泥から発生する消化ガスを高度精製させた「こうべバイオガス」などの研究開発を共同で進めてきた実績もあり、水・インフラ事業の海外展開でもお互いの技術・ノウハウをパッケージで提供しようということになりました。
―神戸市が選ばれて良かったですね。
小柴 他の自治体でもこのような取り組みは進めていますが、やはり神戸市には、バイオガスなどの実証実験や、官民連携の「KOBEグリーン・スイーツプロジェクト」が高い評価を得ているという強みがあります。これらの実績を踏まえたうえでも、現地の神戸市への期待の大きさをひしひしと感じています。
―阪神・淡路大震災の経験はどのように生かされるのでしょうか。
小柴 神戸市で震災後に組織された防災コミュニティがインドネシアでも「BOKOMI(防コミ)」として普及しているように、災害が多い国では、神戸市の経験が復旧・復興に大いに役立つと考えています。水・インフラ事業に関しても、被災直後の飲料水の確保や公共下水道を利用した仮設トイレ、被災しても早期復旧を可能にする施設整備などで、神戸市のノウハウが今後海外でも役立つものと思っています。
―フーコック島が第一号ということですが、これからも国際貢献の取り組みを進めていく予定ですか。
小柴 現在、㈱神鋼環境ソリューションさんとともに事業化調査を進めている段階ですが、モデルケースを作れば、そこから取り組みの幅を広げていけるのではないでしょうか。まずは、フーコック島で成功例を作れば、ベトナム国内外で他の要請も出てくるものと考えています。
―日本と同じような上下水道環境が整うのですか。
小柴 蛇口を開けば美味しい水が出てくる日本の水事情は世界中探しても希少価値があります。そこまで達するのは難しいとは思いますが、できるだけそのレベルに近づけるように努力していきたいと思っています。
―こういった取り組みはあまり市民に知られていないように思いますが。
小柴 これまでも市長が記者会見で話したり、新聞等でも報道されていますが、今後もPR方法を考えて、より積極的な活動につなげたいですね。
―国際貢献にもなる取り組みですから、日本国内の閉塞感を吹き飛ばすつもりで、是非とも第二、第三のモデルケースを作って欲しいですね。
小柴 ベトナムやインドネシアなどは今、世界から注目されどんどん発展している国ですが、まだまだインフラ整備が追いついていない状況です。一つ成功すれば、必ず自然発生的に広がっていくと期待しているところです。
―神戸市民として大いに期待しています。ありがとうございました。
インタビュー 本誌・森岡一孝
神戸市副市長
小柴 善博さん
1950年神戸市生まれ。1972年同志社大学経済学部卒業。同年神戸市採用。1980年経済局商工課主査(神戸ポートアイランド博覧会協会へ派遣)、阪神淡路大震災時は住宅局計画課長として仮設・災害復興住宅建設に携わる。行財政局財政部長、職員部長を経て、2002年みなと総局長、2006年行財政局長を歴任。2009年から副市長。