10月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 61
介護・寝たきりに結びつく運動機能の衰え
ロコモティブシンドロームに注意
─ロコモティブシンドロームとは何ですか。
荒木 ロコモティブシンドローム(以下:ロコモ)は運動器症候群ともいい、骨・関節・筋肉といった運動器の機能が衰えることにより日常生活での自立度が低下して介護が必要になったり寝たきりになったりする可能性の高い状態のことです。生活習慣病の1つとも言えますし、老化とも大きく関係しています。
─ロコモという概念が生まれた背景について教えて下さい。
荒木 近年、介護を必要とする人や寝たきりになる人が急速に増えていますが、その約5人に1人は関節の痛みや転倒などによる骨折など運動器の障害が原因です。そのため、要介護や寝たきりを防ぐためにもこれまでとは違う概念で運動器の障害を捉える必要性が出てきました。そこで新たに提唱されたのがロコモです。ロコモ人口は全国で約4700万人と推定され、うち2800万人くらいの人は痛みがないのでその状態に気づいてないとも言われています。70~80歳ではほぼ100%がロコモです。
─ロコモの原因は何ですか。
荒木 主な原因として①バランス能力の低下、②筋力の低下、③骨や関節の病気が挙げられます。①に関しては体のバランスを取るためには目で見た情報や筋肉や関節、耳の奥にある三半規管から得た情報を脳が統合して体を動かす脳のネットワークが円滑に働く必要があります。②については年齢とともに筋力は低下してきますが、特に大腿四頭筋、大腿ニ頭筋、下腿三頭筋、腸腰筋、殿筋など体を支えている筋肉の力が大きく低下します。これらの筋肉は、歩行、立位動作、しゃがむなどの動作に大きく関わり、筋力が低下すると転倒骨折の危険性が増してきます。③については骨粗鬆症、変形性関節症、脊柱管狭窄症がロコモの3大原因といわれています。骨粗鬆症は骨量が減少し骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、食事、運動量、女性ホルモン等に関係しています。変形性関節症は膝関節、股関節、腰の関節にある軟骨がすり減る等で痛みが出て、移動動作、歩行がつらくなり閉じこもり傾向になってきます。脊柱管狭窄症は脊椎の中の脊髄が入っている脊柱管という空間が狭くなり、脊髄が圧迫され手足のしびれ、痛み、筋力低下につながります。70歳以上の方の約30%~40%が腰部脊柱管狭窄症であるとの報告もあります。これらの病気に関してはそれぞれ治療が必要です。
─ロコモかどうかはどのように判断するのでしょうか。
荒木 ロコモに気づくための指標として、表1のロコモチェック(日常生活動作チェック)を行います。これらはおもに筋力やバランス能力の低下の程度をみるもので、ひとつでも該当する場合や、腰や関節の痛み、筋力の衰え、ふらつきなどの自覚症状がある場合などはロコモが疑われますので、整形外科医など医師の診察を受けましょう。
─ロコモが疑われる場合どのように治療しますか。
荒木 運動療法、食事療法が基本となりますが、骨や関節の病気に関しては病状に応じて投薬・注射・手術などの治療が必要です。ちなみに、膝の痛みをのぞくといわれているサプリメントの改善効果は今の段階ではその効果をはっきりとはお答えできません。医学的に効果はきわめて限定的と思われます。
─どうすれば予防できますか。
荒木 予防のためのロコモーショントレーニング(ロコトレ)の基本となるのがスクワットと片足立ちです。スクワットは5~6回繰り返しますが、安全のために椅子やソファの前でおこないましょう。開眼片足立ちは左右とも1分間ずつ、転倒しないように必ずつかまるものがある場所でおこないましょう。それぞれ1日3回おこなうとよいでしょう。スクワットでは主に大腿の筋肉、殿筋、背筋、腹筋を鍛え、日常生活動作上の立つ、座る、歩くという基本動作に不可欠な筋力を強化します。片足立ちでは大腿、殿筋を鍛えバランス能力を向上させ、片側に普段の倍以上の負荷をかけることで骨の強化にも役立ちます。短時間でできますので、重症度に応じて自分のペースで毎日続けましょう。ほかにもストレッチやウォーキングなど適度な運動も効果的です。ロコモは40歳代から増え始めますので、若い人も今のうちから積極的に体を動かしましょう。
荒木 ●公 先生
神戸市医師会理事
あらき整形外科院長
(註:お名前の●は、「邦」の異体字で、偏の上部の形が「手」のように縦画が上に突き出ない文字)